カンボジア、縫製・製靴業の最低賃金引き上げ 7%増にとどまる (1/2ページ)

与党カンボジア人民党の国民議会選挙キャンペーンで手を振るフン・セン首相=7月7日、首都プノンペン(AP)
与党カンボジア人民党の国民議会選挙キャンペーンで手を振るフン・セン首相=7月7日、首都プノンペン(AP)【拡大】

  • 米ニューヨークで開かれた国連集会中に、フン・セン首相の「独裁政治」に対して抗議の声を上げる人々=9月28日(AP)

 カンボジア政府は、縫製・製靴業の最低賃金を2019年1月1日から月額182ドル(約2万500円)とすることを決定した。18年の最低賃金を12ドル上回る。カンボジアの最低賃金は毎年引き上げられている。最大で前年比約30%増、ここ数年でも10%前後の上昇率が続いたが、19年分は7%増にとどまった。

政治の道具に利用

 カンボジアの最低賃金額は、政府、雇用者組織、労働者組織の代表者からなる労働諮問委員会で毎年協議され、政府に答申される。同委員会は19年の最低賃金を月額177ドルとすることで合意し答申した。これにフン・セン首相が5ドルの上積みを決定し、182ドルとなった。

 縫製・製靴業は、カンボジアの輸出額の約7割を占め、70万人以上の労働者を抱える主要産業の一つだ。同国経済の動向を握ると同時に、この業界で労働者の不満が噴出すれば政権運営にも多大な影響が出る。

 実際に、最低賃金が月額61ドルだった12年ごろには、国内の工場で労働争議が相次ぎ、13年に実施された国民議会選挙では最大野党であったカンボジア救国党が、フン・セン首相率いる与党カンボジア人民党に猛追するという現象が起きた。このため、最低賃金の決定は、労働者層を取り込むための政治の道具としても利用されることがあり、フン・セン首相は毎年、答申された額に「上乗せ」をして最終金額としている。

 また政府は、雇用者側のコスト負担を軽減するため、電気料金を1キロワット時当たりで0.167ドルから0.12ドルへと下げることも明らかにした。

 一方、カンボジアの縫製業には、政治がらみで逆風が吹き始めている。セシリア・マルムストローム欧州委員(貿易担当)は10月5日、欧州連合(EU)がカンボジアの縫製品に対する特恵関税優遇措置(EBA)の停止を再検討していると発表した。現地紙の報道では、実際に停止されるまで少なくとも18カ月はかかる見込みで、EUはカンボジア側に対し「対話の機会は閉ざさない」と伝えたという。

人権抑圧 EUが調査

 特恵関税の停止についてEU側は、現政権による野党や人権団体に対する弾圧を理由に挙げている。今年7月29日に実施された国民議会選挙をめぐっては、フン・セン政権が最大野党救国党を選挙前に解党し、国内外で非難を浴びた。EUは7月上旬にカンボジアに調査団を送り込み、人権抑圧などの状況を独自に調べた。その際は「停止は最終手段」と、慎重な姿勢を見せていたが、今回は既に停止手続きに入ったとも伝えられている。

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