ユーロ経済学

「チャンピオン企業」の是非 米中対抗へ政府介入など議論 (1/2ページ)

 欧州で今年に入り、鉄道や金融の大手企業の統合の試みが相次ぎ挫折した。いずれもドイツやフランスの政府が支援したもので、規模で勝る米中企業との競争で欧州の産業が生き残るため、欧州も規模拡大による「チャンピオン企業」が必要との危機感が背景にある。ただ、政府が介入する産業政策は公正な競争を損なうとの懸念もあり、議論も起きている。

 「株主の利益にならないことが明白になった」

 4月25日、こう声明を発表し、経営統合の協議打ち切りを発表したのは、ドイツ最大手のドイツ銀行と同大手のコメルツ銀行だ。ドイツ銀は収益力低下と相次ぐ不正を受けて経営再建中。コメルツ銀は2008年の金融危機で公的資金を注入されている。統合で経営基盤の強化を図ることを目指していた。

競争法は時代遅れ

 統合を強く後押ししたのは、ショルツ財務相らドイツ政府とされる。ドイツは特に中小企業が多く、その経済を牽引(けんいん)するには主要行が海外銀行に買収されるのではなく、「強いドイツの銀行」が欠かせないとの認識があったためだといわれる。

 だが、経営統合には両行で大規模な人員削減が必要とされ、両行の労働組合が強く反発。実現すれば総資産で欧州3位の銀行が誕生するはずだったが、その構想は泡と消えた。

 2月には独仏両政府が推進した独鉄道車両大手シーメンスと仏同業大手アルストムの鉄道事業の統合計画が、欧州連合(EU)の欧州委員会によりEU域内の公正な競争を損なうとして競争法(独占禁止法に相当)違反と判断され、頓挫している。ドイツ銀とコメルツ銀の破談はドイツ政府としては“政治主導”の統合の2度目の挫折だ。

 ドイツやフランスがこうした企業統合に積極的な背景には、「世界40大企業のうち、欧州は5社のみ」(独経済エネルギー省)という状況下、米中の巨大企業との競争にさらされる欧州の産業を守ろうとの焦りがある。独仏の鉄道統合も世界最大手の中国中車による欧州市場進出への警戒があった。国際競争力の維持のため、「欧州やドイツのチャンピオン企業」(アルトマイヤー独経済相)の創出で対抗しようとの思惑だ。

 アルトマイヤー氏とフランスのルメール経済・財務相はこのため2月、EUの産業政策について共同で提案。その中で競争法の抜本改革を求め、欧州委員会の決定に当たっては世界的な競争も考慮し、加盟国でつくる閣僚理事会に決定を覆せる権限を与えることを盛り込んだ。

 ルメール氏は「われわれが力を合わせ、時代遅れになったルールを変えなければ、欧州は偉大な産業の大陸でいられない」と強調する。5月には独仏の共同の電気自動車(EV)用電池の共同生産計画を発表。大きなシェアを握るアジア勢に対抗するのが狙いで、市場をゆがめる国家補助を認めないEU側も、仏独両国の補助を容認した。

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