鍵は格差是正
これを契機に90年代に入って経済ナショナリズムは終焉(しゅうえん)し、国際化に方向転換した。ただし、それは「経済主義」の反省ではなく、それまでの経済ナショナリズムの結果、次のような成り行きの国際化であった。
- ■経済主義の悪連鎖とバブル経済
- 過剰設備投資⇒過当競争・低生産性・長時間労働⇒過剰生産⇒過剰輸出⇒輸出マネー流入・バブル経済⇒円高・企業の海外組立工場進出⇒海外工場へ機械・部品の持ち出し輸出⇒900億ドルの貿易黒字⇒さらなる円高⇒一層のアジア進出⇒日本・アジアのバブル経済とその崩壊。
- ■所得格差と消費不況の悪連鎖
- 国内経済の低迷⇒輸出プッシュ⇒大企業による「下請け企業の搬入価格切下げ」の強要⇒中小企業の利益圧迫⇒賃金の全般的低下⇒消費不況⇒不況脱出のためのリストラ・非正社員の増加⇒未曽有の所得格差⇒消費不況の持続。
ちなみに中小企業は現在約380万社で、86年に比べ150万社が消滅した。
さて、このような第3番目の国際化の90年代初頭から二十数年を経て、憲法改正や領土・国防問題が再浮上し、他方で子供6人に1人が満足に食べられないほどの所得格差だ。これらが欧米諸国と同様なナショナリズムの基盤を形成しつつある。
他方で米国製防衛装備の輸入拡大など米国追従策の度合いが強まったが、これに対する反発もナショナリズムを引き起こす。
現在は、明治からの「国際化とナショナリズムの約20年周期交代」のナショナリズムへの転換期に当たるが、所得格差緩和策で、これを自覚的に阻止しなければならない。
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【プロフィル】田村正勝
たむら・まさかつ 早大大学院経済学研究科博士課程修了。経済学博士。同大教授を経て現職。一般社団法人「日本経済協会」理事長。74歳。