日米貿易交渉最終合意を受けて、トランプ米大統領は、満面の笑みを浮かべた。米国農業の大勝利だと。それが、すべてを物語っている。日本政府は、ウィンウィンの合意だと主張しているが、まったく理解できない。(ナチュラルアートCEO・鈴木誠)
輸入量は莫大
米通商代表部(USTR)の発表によると、日本側は、72億ドル(約7798億3200万円)相当の米国産農作物の関税を撤廃ないし削減するそうだ。
国内年間農業生産額は9兆円内外、日米内外価格差も加味すると、国内農業の1割以上相当の米国産農作物が日本になだれ込むことになる。昨年12月の環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)発効に続く今年2月の欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)で既に国内には輸入農作物があふれ、それは国内農業を大きく圧迫しているが、日本に輸入される米国農産物はそれに輪をかけた莫大(ばくだい)なものとなる。
今回の日米合意では、条件をTPPレベルに抑えたとも報じられたが、TPPは参加11カ国が、互いにさまざまな譲歩をしながら合意したものだ。今回の米国は、なんらTPP参加国に譲歩することなく、その結果の“良いとこ取り”をしただけ。にもかかわらず、政府も報道も、コメの関税撤廃を防ぎよく頑張ったといわんばかりだ。
そもそも、米国産コメの輸入の焦点はTPPの当初交渉時に合意していた最大7万トンの無関税輸入枠だったが、それは、国内コメ生産の1%未満と、今回の貿易交渉全体から見ればごくわずか。日本産ナガイモや切り花などの関税も米国で撤廃や削減のようだが、それらの輸出は輸入拡大に比べて経済的効果は小さい。これに対し日本における米国産農作物市場は従来の1.5兆円から1.5倍になる見込み。日本の農業にとっては、衝撃的な規模だ。
これまで日本の政治家は「農業は日本の礎だ」と言い続けてきたが、所詮選挙のためのキャッチコピーでしかない。今回の一連の動きの中で、産業としての国内農業はさらに衰退する。
また、経済や政治の他に、食の安全安心問題も、ほとんど無視されてしまっている。2016年、国会でTPPが議論されていた当時、牛や豚の成長促進剤「ラクトパミン」問題が取り上げられた。しかし圧倒的多数与党により、審議はほんの数分で終了し、その後この問題はお蔵入りした。安全安心面では、さまざまな懸念があるとされ、日本を始めEU、中国、台湾などでは使用禁止になっている。13年、ロシアはラクトパミン問題を理由に、米国産肉類を輸入禁止している。
しかし、米国や豪州などでは、ラクトパミンの使用は認められており、その肉類を日本は大量に輸入している。