高論卓説

海外投資家が日本株を売る日 安倍内閣の改革姿勢変化

 株価が堅調だ。10月以降、「海外投資家」が2兆円以上を買い越し、日経平均株価を2000円近く押し上げた。米中貿易戦争や香港の抗議デモの余波で、中国や香港への投資が難しくなった海外の年金基金など機関投資家が、出遅れ感の強かった日本株に資金を振り向けたことが大きい。

 日本の株式市場では売買の多くが海外投資家で、株価の動向は彼らの動きにかかっていると言っても過言ではない。海外投資家は2017年は7500億円の買い越し、18年は5兆7000億円を売り越したが、19年が年間で2年連続の売り越しになるのか、買い越しになるのか、現段階では微妙な情勢だ。

 そんな海外投資家が日本株への投資を続けるかどうか。現状では26兆円に上る巨額の景気対策などに注目が行っているが、長期投資をする年金基金などの運用担当者が気にし始めていることがある。安倍晋三政権の「改革姿勢」がどうなるか、だ。

 「骨太の方針」に沿って、従来3年の時限組織だったものが恒久組織として「常設化」された政府の規制改革推進会議(議長・小林喜光三菱ケミカルホールディングス会長)がようやくスタートした。来年6月に閣議決定する答申に向けて検討する重点テーマを決めたが、これまで規制改革の柱とみられていた雇用制度改革や農業改革などのテーマがすっかり姿を消した。

 75歳以上の後期高齢者が医療機関で支払う自己負担割合を1割から2割に引き上げる方針を厚生労働省が打ち出したが、政府は法案の提出をあっさり見送った。高齢者の負担増に配慮したというのが理由だが、医師会の反対に配慮したとみられる。

 医療、農業、雇用制度は安倍首相が「岩盤規制」の象徴として名指ししてきたもので、首相はその「岩盤規制に穴を開けるドリルの刃になる」としていた。海外投資家はアベノミクスの3本の矢の3番目たる民間投資を喚起する成長戦略に注目し、期待をかけてきた。その安倍内閣の改革姿勢に変化が出てきたのではないか、というのが海外投資家の懸念である。「成長戦略の一丁目一番地は規制改革」と言ってきた安倍首相自身が、どうも改革に向けたやる気がうせたのではないか、というわけだ。

 規制改革推進会議の人事でも、前身組織の議長だった大田弘子氏の後任には、金丸恭文・フューチャー会長兼社長が有力視されていたが、議長はおろか議員にすらならず、メンバーはほぼ一新された。金丸氏はJA全中(全国農業協同組合中央会)の改革など農業分野に激しく切り込んでいた。金丸氏の「退場」はまさしく改革の後退を象徴している。海外投資家の間で、そうした「反改革」の動きが少しずつ認知され始めているのだ。日本はやはり変われない、と海外投資家が見切れば、日本株を売ってくる可能性も否定できない。

 そもそも、日本の市場のあり方に疑問を持ち始めている海外投資家も少なくない。オリンパスや東芝などの巨額粉飾問題が終息したと思いきや、日産自動車、関西電力と相次いでコーポレートガバナンス(企業統治)の不備が明らかになった。また、積水ハウスの地面師事件の真相を現経営陣が隠し続けていることにも批判の声が上がっている。

 ESG投資、つまり、環境・社会・企業統治で優れた企業に投資する流れが世界的に広がっている中で、日本企業の適格性が問われている。

【プロフィル】磯山友幸

 いそやま・ともゆき ジャーナリスト。早大政経卒。日本経済新聞社で24年間記者を務め2011年に独立。

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