高論卓説

中国がリードする顔認証技術 人権弾圧ではなく平和利用促進を

 いよいよ東京オリンピックまで残すところ半年を切った。今回の東京2020オリンピック・パラリンピック競技大会では効率的な運営やセキュリティーの確保のため、約30万人に上る大会関係者の入場時の本人確認に顔認証システムが導入される。「顔認証」と聞くと、筆者のような中国駐在経験者はどうしてもディストピア(暗黒郷)的な監視社会のシステムを連想しがちであるが、東京大会のような平和の祭典を安全に運営するための先端技術の顔も持つ。

 顔認証が身近なものに感じられるようになったのは、2017年秋に発売されたiPhoneX(アイフォーン・テン)に装備された「Face ID」が、広く利用されるようになってからではないだろうか。スマートフォンの画面を見つめるだけで、パスワードの解除ができるようになり、利便性が向上した。

 利便性の向上という点では空港における顔認証の導入もその一つだろう。顔認証ゲートが導入されたおかげで、空港の出入国管理でもほとんど行列することなく、スムーズにパスポートコントロールを通過できるようになった。この春からは、新しい搭乗手続き「OneID」の運用がスタートし、成田空港では最初の手続きのときに顔写真を登録すると、その後の手荷物預け、保安検査、搭乗ゲートでの手続きは、まさに「顔パス」で通過できるようになるとのことだ。

 東京大会や空港の顔パスで使用されるのは、2億3000万人の顔を1秒間で正確に照合可能というNECのシステムだ。AI(人工知能)を活用した顔認証技術は米中が世界をリードしているが、日本勢ではNECの顔認証技術がNIST(米国国立標準技術研究所)主催のベンチマークテストで、4回連続世界1位の評価を獲得するなど健闘している。

 昨年発表された米カーネギー国際平和財団のAI監視システムに関する報告書でも、この分野で世界をリードする企業の一つとしてNECの名前が挙げられている。同報告書によると調査対象の世界176カ国のうち少なくとも75カ国で監視目的にAI技術が使われており、顔認証技術はこのうち64カ国で使われているという。中でも中国は監視技術を国内で活用しているだけでなく、世界中に輸出しているメインプレーヤーでもある。

 米国の事実上の禁輸リストである「エンティティー・リスト」にも掲載されている華為技術(ファーウェイ)、杭州海康威視数字技術(ハイクビジョン)、浙江大華技術(ダーファ・テクノロジー)というなじみの企業の名も同報告書にはリストアップされている。ハイクビジョンやダーファは、中国・新疆ウイグル自治区のウイグル族などのイスラム教徒に対する人権弾圧に使われている監視システムに関与しているとされる企業である。

 ファーウェイは第5世代(5G)移動通信システムやスマホで有名なハイテク企業だが、AI監視システムの分野でも際立った存在のようだ。同報告書によると、ファーウェイは50カ国に対してAI監視技術を提供し、2位のハイクビジョンの15カ国を大きく引き離している。アフリカ諸国などには中国政府のローンとセットで技術を提供している。

 18年の顔認証システムの世界市場規模は54億ドルで、25年には193億ドルに達するという見通しもあり、今後も顔認証システムが導入されるケースが増えるのは間違いなさそうだ。ただ、人権弾圧のための用途ではなく、平和の祭典のセキュリティー確保のような用途で市場が拡大することを期待したい。

【プロフィル】森山博之

 もりやま・ひろゆき 旭リサーチセンター、遼寧中旭智業研究員。早大卒後、旭化成工業(現旭化成)入社。広報室、北京事務所長などを経て2014年から現職。大阪府出身。

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