高論卓説

デジタル通貨の行方 世界4勢力形成、覇権はどこが握るか

 サウジアラビアの首都リヤドで行われていた20カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議が23日に閉幕した。今回はデジタル通貨に関する議論が期待されたが、時節柄、新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動への影響が主な議題になった。

 一方で今年の1月21日、「中央銀行デジタル通貨(CBDC)の活用可能性の評価に関する知見を共有するためのグループ」が発足した。メンバーはカナダ銀行、イングランド銀行、日本銀行、欧州中央銀行、スウェーデン・リクスバンク、スイス国民銀行、国際決済銀行である。

 これはどうした動きなのか、ここでデジタル通貨をめぐるこれまでの経過についていったん整理をしておこう。

 昨年の6月に米フェイスブック(FB)がデジタル通貨リブラの概要を発表して以降、それまで動きが鈍かった主要国でも、にわかにデジタル通貨に関する議論が活発化した。

 FBのデジタル通貨開発の理念の中核は「金融包摂」であった。途上国の貧しい人々や、米国など先進国においても貧困から銀行口座を開設できない人たちが大勢いる。しかしこうした人たちもスマートフォンなら持っている。であれば近年発達したデジタル技術の成果を使って国境のない新しいデジタル通貨リブラを作れば、こうした阻害されてきた人たちも最新技術の恩恵を受けることができる、具体的に高かった送金手数料などから解放されるだろうというものだった。

 しかしながら、これに対する反発は予想以上に大きなものだった。まず民間の会社が独占的でクロスボーダーな通貨を独占してよいものだろうかという問題があった。金融包摂はお題目で収益の追求があるに違いない。またFBはリブラ発表の直前に大規模な個人情報漏洩(ろうえい)の問題を起こしていたことも指摘された。

 各国中央銀行から見れば、リブラは現在独自通貨で行われている金融政策の有効性の問題やシニョリッジと呼ばれる通貨発行益、マネーロンダリング(資金洗浄)に利用されやすいなどの問題があった。

 米国にすれば現在ドルが覇権通貨として世界に流通しているわけで、そのメリットは計りしれない。ましてや米国経済はかつての全盛期ほど世界経済に占める割合が高いわけではない。そうした覇権通貨ドルの地位を脅かすような存在は排除されるべきなのだ。

 また安価な外貨送金など、既存のドルを扱う米国の銀行業界からみればリブラなどは既得権益の侵害である。こうしたわけで当初はリブラを「皆で無視する」のが最良の選択だった。しかし、こうした中で中国がこれを機に一気にデジタル人民元を普及させる動きを示した。拡大する中国の世界経済に占める影響力、一帯一路圏内での経済的支配力などを考慮すると、今度はリブラではなくデジタル人民元普及が持つ安全保障上の問題が懸念されることになったのだ。

 またトランプ政権によるアメリカ・ファースト政策は、英国、欧州連合(EU)、日本など旧西側主要国にすれば、依存し過ぎるといつハシゴを外されるのか分からないリスキーなものに映る。これは通貨問題においてもいつまでもドル覇権に依存する危険性を考慮せねばならないことを意味した。

 かくしてリブラ、米国、中国、その他主要国の4つのグループ勢力が形成されることになったのである。デジタル通貨リブラが投げかけた波紋は、依然広がり続けており目が離せない。

【プロフィル】板谷敏彦

 いたや・としひこ 作家。関西学院大経卒。内外大手証券会社を経て日本版ヘッジファンドを創設。兵庫県出身。著書は『日露戦争、資金調達の戦い』(新潮社)『日本人のための第一次世界大戦史』(毎日新聞出版)など。

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