高論卓説

「南海トラフ地震」に備えよ 地道に対策、常に危機意識を

 「地震、雷、火事、親父」。私たちが幼少時から怖いこの順番を教えられた。家が揺れ始めたなら、何も持たずに広場へ逃げろ、と教えられた。日本は地震大国であることを忘れてはならず、常にその教訓を生かし対策を練っておかねばならない。

 政府の地震調査委員会が先月、今後30年以内に起きる可能性が高まっている「南海トラフ地震」について公表した。大津波が発生する確率の推計である。想定死者数は23万1000人に上るという。

 2002年に「東南海・南海地震に係る地震防災対策の推進に関する特別措置法」が、国会の審議なしで全会一致で成立した。審議するまでもなく、必要な法律だと認識されたのだ。13年11月に題名中「東南海・南海地震」を「南海トラフ地震」に改めた。

 南海トラフとは、駿河湾から遠州灘、紀伊半島の南側の海域および土佐湾を経て日向灘沖までをいう。フィリピン海プレートとユーラシアプレートが接する海底の溝状の地形を形成する区域だ。静岡県から宮崎県までの太平洋側に当たる。

 この地震の特徴は、大津波(5~10メートル超)が高い確率でくると想定されること。木造家屋が全壊、流失するばかりか、多くの人たちが津波に巻き込まれる。各自治体は、防災対策を練り避難所の設置が焦眉の急となっている。私は、この法律にタッチしていたので、成立後、関西国際空港の滑走路に高潮対策を講じていただいたが、一昨年の台風では役に立たなかった。自然のパワーは、科学上の想定をはるかに超えることを理解しておく必要がある。

 内閣府が19年に南海トラフ地震による被害を再計算したところ、12年8月の資料によれば津波の高さは驚異的である。高知県黒潮町では34メートル、静岡県下田市で33メートル、三重県鳥羽市で27メートルの予測だ。東京湾や大阪湾は3~5メートルでしかないが、標高の低い所では大きな浸水被害を受け、人々は津波にのまれてしまうという。

 100年から200年の間隔で繰り返し発生してきただけに南海トラフ巨大地震は、いつ襲来しても不思議ではない。果たして、私たちにその危機意識があるだろうか、私は疑問に思う。

 11年の東日本大震災では、想定外の大被害を受けた。昨今の台風にしても、想定外の被害をもたらす。自然災害の被害を予測すれば、あまりにも甚大で、どのようにすれば減災・防災につながるか模索は難しい。だからといって対応をしないのでは、南海トラフに係る法律を無視し、住民の命を軽視することになる。

 この法律は、防災訓練についても記述している。浜口梧陵の「稲むらの火」に学ぶべきであり、各学校においては年に数度の避難訓練を行う必要がある。危機意識を高めさせ、突然やってくる地震や津波から己を守る訓練は大切だ。

 15年12月、国連総会で142カ国の提案により11月5日が「世界津波の日」に制定された。この日は、1854年に安政南海地震の津波が和歌山を襲った日で、梧陵の稲むらの火によって村人の9割を救った記念日だ。梧陵は私財で現在の広川町に津波に備えて堤防を造り、防災事業に取り組んだ。現代のように災害対策に関心が払われていなかった時代での話。

 「コンクリートから人へ」というキャッチフレーズで政権を奪取した政党があったが、東日本大震災で国土強靱(きょうじん)化の必要性を痛感させられた。国民の生命と財産を守るためには、常に危機意識を持ち、地道に対策を講じるしかない。

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【プロフィル】松浪健四郎

 まつなみ・けんしろう 日体大理事長。日体大を経て東ミシガン大留学。日大院博士課程単位取得。学生時代はレスリング選手として全日本学生、全米選手権などのタイトルを獲得。アフガニスタン国立カブール大講師。専大教授から衆院議員3期。外務政務官、文部科学副大臣を歴任。2011年から現職。韓国龍仁大名誉博士。博士。大阪府出身。

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