海外情勢

独メルケル首相の“禅譲”戦略をくじいた極右政党の「クーデター」 (2/2ページ)

 州首相選出をめぐり、州レベルの密約があったのかは定かでない。ただ、同州でAfDを率いるヘッケ氏はCDUや中道政党に書簡を送るなどして事前にすり寄ってもおり、首相選出後、「巧みな戦術が成功した」と誇った。

 過激グループの影響拡大

 今回の騒動でCDUはAfDへの対処をめぐる党内の温度差をさらけだした。極右と一線を画すことを政治文化として育んできた旧西独に比べ、旧東独ではAfDへの抵抗感が薄い。党内をコントロールできなかったクランプカレンバウアー氏は事後対応でも州支部と対立して権威が失墜。身を引く形をとった。

 メルケル氏の移民政策などを批判してきたAfDは「われわれの目標はメルケル氏だ。責任をとらさねばならない」(モイテン共同代表)と、メルケル氏の早期退陣に向け意気軒高だ。だが、手放しで喜べない事情もAfDにはある。

 AfDはもともと「反ユーロ」政党として旗揚げされ、欧州への難民・移民の大量流入を機に、反移民など排外主義的な主張を強めてきた。その過程では党内抗争を繰り広げながらも、党勢拡大のため、ネオナチなど過激な極右勢力とは同一視されないよう努めてきた経緯がある。

 だが、今回“手柄”を立てたヘッケ氏は党内の国粋主義的で過激なグループの中心人物で、過去には「ホロコースト(ユダヤ人大虐殺)記念碑」がベルリン中心部にあることを「恥辱」とし、過去の反省を重視する政策を「180度転換」すべきだと主張。ナチスを想起させるような言葉も用いるなど過激さで知られ、党主流派は対応に苦慮しているのが実情だ。

 テューリンゲン以外の旧東独2州の選挙でAfDを率いたのもヘッケ氏の仲間だ。メルケル氏の後継戦略を頓挫させたことで、ヘッケ氏のグループの影響力がさらに高まるとの見方が大勢で、党内では懸念もされている。最近ではヘッケ氏のグループに「党が乗っ取られる」と、離党した国会議員もいる。

 CDUは4月に次期首相候補を兼ねる新党首を選ぶ方針で、今のところ「反メルケル」路線の党内保守派候補と親メルケル派候補を軸に党首選は展開される見通し。だが、誰が勝利してもAfDへの対処で一枚岩となれなければ、戦後ドイツの復興・発展をもたらした伝統政党の党勢回復はおぼつかない。

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