リーマン時に匹敵
今年の成長率目標については「新型コロナの全世界での感染状況や経済・貿易情勢において不確実性が大きい」として、言及されなかったが、同報告に盛り込まれた政策はリーマン・ショック時に匹敵する大型景気対策となった。19年の財政赤字の対GDP比率は2.8%であったが、今年の赤字率は3.6%以上と大幅な拡大となる。
財政赤字規模を前年から1兆元拡大すると同時に、1兆元の疫病対策特別国債を発行する。これら2兆元を全て地方に移転して、雇用や基本民生、市場主体を保障し、減税や手数料・賃料引き下げを推し進め、消費や投資の拡大を図る。
投資拡大に向け、今年の特別地方債発行規模は前年より1兆6000億元多い3兆7500億元とした。第5世代(5G)移動通信システムや、人工知能(AI)などの「新型インフラ」の構築を強化し、新エネルギー車を普及させ、消費刺激や産業の高度化を後押しする。
穏健な金融政策は、預金準備率引き下げ・金利引き下げ・再貸出などの手段を運用して、流動性の合理的充足を維持し、貸出市場金利の低下を誘導し、実体経済とりわけ中小・零細企業を資金支援することとされた。
しかし、リーマン・ショック時に発動された大型景気対策は、その後、国有企業と地方政府の債務増大、住宅価格の上昇による住宅ローン債務増大といった債務比率の増大をもたらした。現在も、住宅市場は十分沈静化しておらず、地方政府は投資拡大のチャンスを狙っている。大型景気刺激策は、経済を一時的に立て直しても、債務比率の上昇・金融リスクの増大をもたらす可能性があり、中国の「質の高い発展」戦略は正念場を迎えているといえよう。
【プロフィル】田中修
たなか・おさむ 1982年東京大学法学部卒業、大蔵省入省。1996~2000年、在中国日本国大使館勤務。帰国後、財務総合政策研究所副所長、税務大学校長を経て、18年12月から日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所上席主任調査研究員。