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硬派の学術出版社が解散 大手が異例の「丸ごと引き継ぎ」を決めたワケ (1/2ページ)

 老舗の人文・社会科学系出版社として知られる創文社が6月末で解散し、同社出版物の刊行を講談社や東京大学出版会などが引き継ぐことが決まった。出版社の解散に際し、刊行物が絶版にならず大規模に引き継がれるのは異例だ。背景には大学の図書購入費減少や出版電子化の進展に伴う学術出版社の苦境と、その中で懸命に良書を守ろうとする関係者の努力が見える。

 創文社は昭和26年設立。「良書は一人歩きする」という創業者の信念のもと、昭和35年から半世紀をかけて完訳した中世の神学者トマス・アクィナスの『神学大全』の邦訳(全45巻)や全102巻の『ハイデッガー全集』の邦訳(刊行中)など、主に哲学や歴史学、社会学の研究者向けの学術書に定評があった。

 刊行物の多くは比較的少部数で高額のため、図書館などへの納入が大きなウエートを占めていた。だが、日本図書館協会の統計によると、平成12年度に317憶円あった全国の国公私立大学の図書費は、令和元年度には153億円に減少。国立大学の予算削減や、普及が進む学術雑誌の電子版(電子ジャーナル)の購入費増大などが影響したとみられる。創文社が4年後の会社解散を表明した平成28年時点の売上高は10年前と比べ半減しており、平均的な初版部数も今世紀初めには1千部あったのが600部程度にまで落ち込んでいたという。

 同社最後の社長を務めた久保井正顕さんは、「大学の図書購入費が減り、また公共図書館も市レベルの館が学術書を買わなくなって、経営が難しくなった。このままでは印税が払えなくなるなど著者や取引先に迷惑をかけてしまうと判断し、ソフトランディングを図ることにした」と明かす。28年9月の解散表明以降、新刊発売は翌年3月で終了。令和2年3月に既刊の全書籍の販売を停止するなど、解散に向けての作業を進めていた。

 一方、同社の解散表明を受けて、質の高い学術書の絶版を危惧する声が続出。そのうち、約半数が刊行済みの『ハイデッガー全集』については、翻訳者の仲介もあり、東京大学出版会が刊行を引き継ぐことが決まった。同会は今年度内にも2~3冊をリリースし、来年度以降も同ペースで刊行を進めていくとしている。編集部の後藤健介さんは「訳者の方いわく、日本のハイデッガーへの関心の高さは、ある意味でドイツ本国をしのぐほど。こうした全集について、図書館などの機関のみならず、個人で購入する人がいるのは世界的にも珍しい」とした上で、「今後の刊行巻は、ナチス協力期など後期ハイデッガー思想の核心部に入っていく。創文社さんの志を引き継ぎつつ、新しいハイデッガー像を日本の読者に提供できれば」と、刊行継続の意義を語る。

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