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LED照射で日本酒造り 業界の非常識に挑む若手蔵元の“哲学”

 日本各地の酒蔵で、酒造りのシーズンが終わる3月。明治5(1872)年創業の西堀酒造(栃木県小山市)では、日本で唯一とされる透明タンクに赤色LED(発光ダイオード)を照射して発酵を促進する日本酒造りに挑戦している。「酒造りに光は厳禁」という常識を打ち破り、すでに青色LEDを照射した日本酒の試作に成功。赤色LEDを照射して造る新ブランド「ILLUMINA(イルミナ)」を、4月上旬に販売する。東大哲学科出身でシステムエンジニアだった若手蔵元は、伝統を守りつつ、新たな酒造りを目指す。(鈴木正行)

 伝統と柔軟性

 3月上旬、西堀酒造の真っ暗な蔵の中で、赤く光り続ける4基のLEDライト。品質への影響を考えて光を極力避けるのが常識の酒造りでLEDを照射する理由について、西堀酒造の6代目蔵元、西堀哲也さん(30)は「LEDは水耕栽培で太陽光の代わりとなっており、酒造りにも影響があるのではと考えた」と話した。

 同社の酒蔵は江戸時代末期に建設され、敷地内の建造物は国登録有形文化財に指定されている。代々受け継がれてきた「蔵付き酵母」の力を生かし、現在も発酵作業を行う。酒造歴60年の杜氏(とうじ)に12年間教えを請い、全国新酒鑑評会で平成17年から3年連続金賞受賞など、数多くの実績がある。輝かしい歴史と伝統を誇る酒蔵だ。

 一方、西堀さんは酒造業界の蔵元の中では異色の経歴。東大文学部哲学科を卒業後、システムエンジニアとして大手企業に在籍したキャリアを持つ。

 28年12月、父の和男社長(62)の元に戻った際、「伝統として守るべきものは守り、常に先を見据えて新しく柔軟な発想で酒造りを行えるような酒蔵でありたい」と決めた。

 透明タンク醸造

 西堀さんは、酒造りにありそうでなかった手法を次々に取り入れた。特注の透明タンクはその一つだ。

 麹菌や蒸米、酵母の入ったもろみの発酵の様子は、従来のホーロー製タンクでは上方からしか観察できない。温度調整や加水の量、櫂(かい)入れといわれるもろみを混ぜる作業は、杜氏の長年の経験だけが頼りとなる。西堀さんは「透明タンクであれば、側面からも酵母本来の自然な発酵を見ることができ、繊細できめ細やかな発酵管理ができる」と考えた。

 しかし、耐久性や製造コスト、作業の手間などを考慮すればホーロー製がベスト。異例のタンクの製造依頼に、取引先の醸造器具メーカーはかぶりを振った。それでも、醸造業界以外の全国の業者に問い合わせ、29年3月、設計を西堀酒造で行うという条件で製造依頼が実現。完全オーダーメードとなるアクリル製の透明タンクを導入することができた。令和元年5月には「透過性素材を用いた醸造装置」として特許も取得した。

 この透明タンク醸造によって完成したのが、純米大吟醸酒「CLEAR BREW(クリア・ブリュー)」。他の蔵元からは「おもしろいことをやってるね」と好奇の目で見られたこともあったが、30年5月に開催された「インターナショナル ワイン チャレンジ2018」のSAKE部門で大会奨励酒に選ばれた。

 光による発酵管理

 次に取り組んだのは、従来の「温度」による発酵管理に加えて、「光」による発酵管理だった。

 西堀さんは昨年9月ごろ、「波長の長いもの(赤色光)が酵母の増殖に寄与する」という基礎研究の論文を読んだ。「発酵中に短い波長(青色光)のLEDを照射すれば、発酵を抑制できるのでは」という仮説を立てた。

 そして、クラウドファンディングで左党らの支援を得て、透明タンクに仕込んだもろみに、青色LEDを24時間当て続けて発酵させた。センサーで計測した温度などの発酵過程の分析値からは、発酵の後半で明らかに進行が遅くなっていたことが確認できた。昨年12月に瓶詰めした純米吟醸酒「門外不出 青光」は、「華やかな香りとなめらかできれのある味わい」(西堀さん)に仕上がった。

 今年3月からは、赤色LEDを照射した酒造りを行っている。青色LEDとは逆に発酵が促進されるため、ドライでやや酸味のある味になるという。「普段日本酒を飲まない方にも飲んでもらえたら」(西堀さん)と考え、ラベルも従来の日本酒の定番と異なり、モダンなデザインを採用する。

 西堀さんの次の目標は、日本酒の製造に再生可能エネルギーを活用する「SAKE RE100」プロジェクト。環境にやさしい日本酒を造り、人と自然が共生する持続可能な酒造りを目指すという。

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