鎌倉時代の日本人が見つめている
現代の張儀の最大の役割は、日本を連衡策へ引き入れることだろう。昔から日本の平和と安全は、大陸北方の支配勢力が南進を決意するかどうか、大陸中央部の支配勢力が東進を決意するかどうかにかかってきた。
日本の地政学的位置を考えれば、大陸中央部の支配勢力が東進を決意したとき、日本には、これに飲み込まれるか、これと対抗して押し返すかの二択しかない。鎌倉時代の北条時宗は後者を採ることを決断し、文永の役(1274年)、弘安の役(1281年)で元およびその属国となっていた高麗と、日本は単独で戦った。
今、日本は単独ではなく、同盟国があり、共に合従する国もある。
折しも、習近平指導部によるウイグル民族に対する弾圧に対し、欧米各国はこれを強く非難し、特に米国は「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと最大級の非難をして制裁措置に出ている。
これに対し、日本の政府は、言葉では非難するものの具体的行動には出ていない。その理由として、中華人民共和国との経済関係の深さを挙げたり、中華人民共和国がジェノサイドを否定していることを挙げたりする政治家がいる。
習近平指導部からは、日本こそ最も連衡策を施しやすい国に見えるだろう。しかし、この問題は究極的には、日本人は人間の尊厳を護る側に立つのか、それとも人間の尊厳を踏みにじる側に立つのか、という問題でもある。
ときの英国首相、チェンバレンのヒトラー政権に対する妥協的な「融和政策」がナチスドイツのポーランド侵攻を招いたことを、そして、そのポーランドに侵攻したナチスドイツと組んだことが日本の大失敗だったことを忘れてはいけない。
現代の日本人が連衡策に絡め取られることなく、強い環として合従策を支え切ることができるかどうか。鎌倉時代の日本人がじっと見つめている。
【疾風勁草】刑事司法の第一人者として知られる元東京地検特捜部検事で弁護士の高井康行さんが世相を斬るコラムです。「疾風勁草」には、疾風のような厳しい苦難にあって初めて、丈夫な草が見分けられるという意味があります。アーカイブはこちらをご覧ください。