疾風勁草

現代に蘇る合従連衡 日本は合従策を支える決意を (2/2ページ)

高井康行
高井康行

 鎌倉時代の日本人が見つめている

 現代の張儀の最大の役割は、日本を連衡策へ引き入れることだろう。昔から日本の平和と安全は、大陸北方の支配勢力が南進を決意するかどうか、大陸中央部の支配勢力が東進を決意するかどうかにかかってきた。

 日本の地政学的位置を考えれば、大陸中央部の支配勢力が東進を決意したとき、日本には、これに飲み込まれるか、これと対抗して押し返すかの二択しかない。鎌倉時代の北条時宗は後者を採ることを決断し、文永の役(1274年)、弘安の役(1281年)で元およびその属国となっていた高麗と、日本は単独で戦った。

 今、日本は単独ではなく、同盟国があり、共に合従する国もある。

 折しも、習近平指導部によるウイグル民族に対する弾圧に対し、欧米各国はこれを強く非難し、特に米国は「ジェノサイド(民族大量虐殺)」だと最大級の非難をして制裁措置に出ている。

 これに対し、日本の政府は、言葉では非難するものの具体的行動には出ていない。その理由として、中華人民共和国との経済関係の深さを挙げたり、中華人民共和国がジェノサイドを否定していることを挙げたりする政治家がいる。

 習近平指導部からは、日本こそ最も連衡策を施しやすい国に見えるだろう。しかし、この問題は究極的には、日本人は人間の尊厳を護る側に立つのか、それとも人間の尊厳を踏みにじる側に立つのか、という問題でもある。

 ときの英国首相、チェンバレンのヒトラー政権に対する妥協的な「融和政策」がナチスドイツのポーランド侵攻を招いたことを、そして、そのポーランドに侵攻したナチスドイツと組んだことが日本の大失敗だったことを忘れてはいけない。

 現代の日本人が連衡策に絡め取られることなく、強い環として合従策を支え切ることができるかどうか。鎌倉時代の日本人がじっと見つめている。

高井康行(たかい・やすゆき)
高井康行(たかい・やすゆき) 弁護士、元東京地検特捜部検事
1947年、愛知県生まれ。早稲田大学法学部卒業後、1972年に検事任官。福岡地検刑事部長、東京地検刑事部副部長、横浜地検特別刑事部長などを歴任した。岐阜地検時代には岐阜県庁汚職事件を、東京地検特捜部時代はリクルート事件などを捜査。福岡地検刑事部長時代、被害者通知制度を始める。1997年に退官し、弁護士登録。政府の有識者会議「裁判員制度・刑事検討会」委員を務めたほか、内閣府「支援のための連携に関する検討会」の構成員や日本弁護士連合会の犯罪被害者支援委員会委員長などを務めた。テレビや新聞でも識者として数多くの見解を寄せている。

【疾風勁草】刑事司法の第一人者として知られる元東京地検特捜部検事で弁護士の高井康行さんが世相を斬るコラムです。「疾風勁草」には、疾風のような厳しい苦難にあって初めて、丈夫な草が見分けられるという意味があります。アーカイブはこちらをご覧ください。

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