真山仁の穿った眼

イーロン・マスクやジェフ・ベゾスのような“夢を実現する経営者”を生むために (2/2ページ)

真山仁
真山仁

 何のために金儲けをするのか

 以前、拙著『売国』の取材で、「スペースX」本社を覗かせてもらった。オフィスのあらゆる所に、2枚の惑星の写真が貼られている。1枚は、地球であり、もう1枚は、地球化に成功した火星の予想図だ。同社で働く研究開発者は皆、マスクから「それで、あとどれぐらいで火星に行ける?」と何度も尋ねられる。さらに「そのために、何が足りない?」と聞いて、その足りないものを、彼はあらゆる手段で入手してくるというのだ。

 一方ベゾスは、Amazonの最高経営責任者(CEO)を退任後、自らが創業した「ブルーオリジン」社の宇宙船「ニューシェパード」に搭乗し、高度約100キロの宇宙に到達した。それは5歳からの夢を実現した瞬間だった。

 金持ちになりたくて頑張る日本の若い経営者と異なり、彼らは、夢を実現するために金儲けをして大成功している。

 なぜ、こんな違いが生まれるのだろうか。

 ヒントは、今の若者に、「あなたの夢は?」と尋ねると見えてくる。

 大抵の人は、「ありません」か「分かりません」と答える。それではいけないと思うけど、ないものはないのだと言われたこともある。あるいは、堂々と「金持ちになりたい」という若者もいる。でも、金持ちになって、何かやりたいことがあるわけではない。

 日本はアニメ大国だし、創作のレベルは高いと言われている。だが、いつか自分も子供の頃に見たアニメのような世界を創りたい、と夢を持つ人があまりにも少ないのは、なぜなんだろうか。

 研究者の中には、夢を持っている人はいる。だが、彼らはそれを実現するための具体的な道筋や資金調達では、他力本願なケースが多い。

 自ら夢を実現するためには、必要なことは何かを見極め、誰にも頼らず自分の力でそれを手にする方法を考え、挑戦し続ける胆力が大切なのだ。

 日本の経営者に、小粒でつまらない人が増えた。

 夢を語らせても、抽象的なことしか言わない。

 戦後日本を復興させた財界人には、夢を形にしたいという思いで、頑張った人が多かった。あるいは、取り組み、成功させた事業こそが、夢の実現だったという人もいた。

 そんな夢を見る力や、その素晴らしさを語る大人が減ったことが、若者に影響しているのは、間違いない。

 やせ我慢ではなく、金持ちになるだけなんて、つまらない。カネは、何かを実現するために使うものだ。

 私は、カネには無縁だが、一方で、小学生の頃に「小説で社会に警鐘を鳴らし、日本をもっといい国にしたい」と思い、高校生の頃から本気で小説家を目指した。

 そして、ずっとその夢を周囲に放言していた。

 30代になったら、もうそれは、妄執に近かった。だが、挑戦を進めてから25年目に、曲がりなりにも小説家になった。

 それは、夢を実現したのではない。ようやく、夢を実現するための第一歩を記したのだ。

 夢は、何者かになることではない。何かをやることなのだ。

昭和37年、大阪府生まれ。同志社大学法学部政治学科を卒業後、新聞記者とフリーライターを経て、企業買収の世界を描いた『ハゲタカ』で小説家デビュー。同シリーズのほか、日本を国家破綻から救うために壮大なミッションに取り組む政治家や官僚たちを描いた『オペレーションZ』、東日本大震災後に混乱する日本の政治を描いた『コラプティオ』や、最先端の再生医療につきまとう倫理問題を取り上げた『神域』、「震災三部作」の完結編となる『それでも、陽は昇る』など骨太の社会派小説を数多く発表している。初の本格的ノンフィクション『ロッキード』を上梓。最新作は、東南アジアの軍事政権下の国で「民主主義は、人を幸せにできるか」を問う長編小説『プリンス』。

【真山仁の穿った眼】はこれまで小説を通じて社会への提言を続けてきた真山仁さんが軽快な筆致でつづるコラムです。毎回さまざまな問題に斬り込み、今を生き抜くヒントを紹介します。アーカイブはこちらから。真山仁さんのオウンドメディア「真山メディア-EAGLE's ANGLE, BEE's ANGLE-」も随時更新中です。

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