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日本家電の落日 開発競争に明け暮れ…気づけば安いサムスンに敗北

2012.6.29 05:00更新

【ビジネスアイコラム】

 約2年の支局暮らしを経て5月に大阪経済部に戻ってみると、以前と別世界を思わせる風景が広がっていた。経済誌の特集や新聞の企画には「家電敗戦」「テレビなぜ負けた」などのタイトルが並び、かつて日本の経済と雇用を支えていたパナソニックやシャープなどの苦境を書き立てている。

 少なくても2年前まで、堺市のシャープの液晶パネル工場や兵庫県尼崎市のプラズマテレビ用のパネル工場には関西経済の牽引(けんいん)役として期待が寄せられ、大阪湾はパネルベイともてはやされていた。それが今、ソニーを含めた家電3社は2012年3月期連結決算でそれぞれ過去最大の最終赤字を計上する事態に陥り、自前のパネル生産にこだわったテレビ事業への過剰投資が不振の原因だと戦犯扱いだ。

 高い技術力を誇り、世界市場への戦略商品だった日本のテレビは、いつの間にか強みを失っていた。円高に加え、国内で地上デジタル放送移行に伴う特需がなくなったことが影響したのは間違いない。だが、安価なテレビを桁違いの規模で市場に投入する韓国メーカーとの過当競争で価格破壊が進んだ結果、「売れば売るほど赤字になる」(家電大手幹部)状態に成り下がってしまった。シャープの堺工場の稼働率は3割程度と低迷し、パナソニックの尼崎工場は一部生産停止に追い込まれた。

 旧知の家電大手の担当者は「世界規模のたたき売りに巻き込まれては、とてもやっていけなかった」と語った。そして「国内のライバルを意識して、ひたすら画質、音質にこだわって開発競争に明け暮れていた。そして気がつけば、海外市場で消費者に選ばれたのは画面でも音でもなく、安くてデザイン性に優れた韓国・サムスン電子のテレビだった」と打ち明ける。

 国内の家電メーカーの勝利の方程式といわれた「垂直統合モデル」の生産方式にも見直しの動きが加速している。パネルなど基幹部品の開発・生産から完成品の組み立てまで一貫して自社で手掛ける自前主義だが、シャープは受託製造世界最大手の台湾・鴻海精密工業と資本業務提携を発表、テレビやスマートフォン(高機能携帯電話)などの共同生産に乗り出す。パナソニックも高収益が見込める白物家電とともに、蓄電池や車載用電池などエネルギー事業に事業の重点を移し、次世代テレビとされる有機EL(エレクトロルミネッセンス)テレビの開発をめぐり、長年のライバルだったソニーとの提携に合意した。

 復活劇には、かつての成功体験をも捨て去ることが必要となるだろう。パナソニック創業者、松下幸之助翁に「不況またよし」の言葉がある。不況のときは好況時には見えなかった部分が見え、経営を見直す機会という意味だ。これを「苦境またよし」と言い換え、抜本的な改革で次の強みを打ち出すことができるかが問われている。(産経新聞大阪経済部次長 松岡達郎)

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