「がんばらない」路線貫くケーズデンキ どことも組まず郊外大型店で攻勢
2012.6.30 05:00更新
地方の家電量販店を傘下に収め、収益を伸ばしてきた茨城県発祥のケーズホールディングスが新たな経営判断を迫られている。2011年3月期まで64期連続の増収だったものの、家電エコポイント制度と地上デジタル放送への移行による特需の反動で、12年3月期は1947年の創業以来初となる減収を記録。26日には業界5位のビックカメラが7位のコジマを買収し、2位に躍り出た。国内の家電需要がしぼむ中、量販店の再編機運が高まりつつあり、3位から4位に後退したケーズが新たな主役となるとの観測も浮上している。
5月17日、JR前橋駅にほど近い前橋市のショッピングモール「けやきウォーク」に、ケーズデンキの新店舗がオープンした。売り場面積は約5400平方メートルと既存店舗平均の約1.5倍。豊富な品ぞろえが客を呼び込み、レジには長い列ができた。
「地域最大店を出店し、集客力を高める」。ケーズを率いる加藤修一会長はこう強調する。群馬県は業界トップを走るヤマダ電機のお膝元だが、その戦略に変わりはない。
店舗の大型化は、収益力向上策の柱の一つ。13年3月期の1店舗当たり売り場面積は04年3月期に比べ約2.1倍の3599平方メートルに拡大する見込み。年に約40店のペースで出店を続け、12年3月期末の380店と比べて10年後には店舗数を約2倍に増やす計画だ。
ケーズは大型店の新規出店にこだわる。「当社の折り込みチラシの配布世帯比率は約45%と低く、全国での出店余地はまだ大きい」(加藤氏)とみる。
出店地域はヤマダが攻勢をかける都市部には目もくれず、郊外に徹する。「都心部の出店コストは郊外の10倍以上かかる。お客さんが郊外店の10倍以上来てくれないと成り立たない」というのが、その理由だ。
そして、ケーズのDNAともいえる「がんばらない」路線が戦略の随所に現れる。「背伸びしてがんばっても、ろくなことがない」という持論を貫いてきた加藤氏は「出来もしないことはやらず、やるべきことをきっちりとやる」と強調する。
そのDNAは、消えた特需を穴埋めする対策にも垣間見える。薄型テレビの落ち込みをカバーしようとヤマダなど競合他社は、太陽光発電システムや電気自動車(EV)の売り込みに力を入れている。それに対し、ケーズは「余計なことを考えず家電を売っていく」(加藤氏)。重点商品の冷蔵庫と洗濯機、掃除機の売上高(全店ベース)はいずれも4、5月に前年実績を上回った。
無理して成長することで生じるムダを減らし、ローコスト経営を徹底するのも、ケーズの力の源泉となっている。
その代表例が、店頭での現金値引き。多くの量販店が集客に活用するポイントカード制は採用せず、会計処理などのシステムにかかるコストやカード発行の手間を省くことで、値引きの原資を手厚くしている。売れた商品の分だけ自動で発注する仕組みなど、効率化を図る投資にも抜かりがない。
こうした戦略が功を奏し、12年3月期の売上高営業利益率は4.7%を確保した。売上高が約2.5倍もあるヤマダ電機の4.8%と肩を並べ、業界でもトップクラスの収益力を誇る。ビックカメラはコジマとの単純合算では直近で2.4%にとどまり、ケーズには及ばない。
もっとも、少子化による人口減少で業界の先行きには暗雲が垂れ込める。日本政策投資銀行の試算によると、10年に約6兆円だった家電量販市場の規模は11年には約5兆円に後退し、12年以降は4兆円台半ばまで縮小する見通しだ。業界は既に、需要よりも店舗数が多い「オーバーストア」に陥っている。
地方に不採算店を多く抱えるコジマがビックカメラに「身売り」したのも、生き残りの選択肢が限られていたためだ。
そもそもケーズは再編をリードしてきた経緯がある。東北地区のデンコードや中京・東海地区のギガスといった量販店を取り込み、2000年度に11位だった家電量販店の売上高ランキングは11年度には3位に上昇した。
加藤氏は「今は組みたい相手はいない」と静観の構えをみせる。もっとも「家電量販のビジネスはスケールメリットがモノをいう」(外資系証券アナリスト)世界。仕入れ量がメーカーとの値引き交渉を大きく左右する。ケーズだけでなく、ヤマダや業界3位のエディオンなどのライバルもどう動くのか。7社に集約された大手が、さらに絞り込まれるとの見方は強い。(松元洋平)