ニュースカテゴリ:企業
自動車
変わるトヨタ、原点回帰の裏側 クルマづくりに軸足、大胆なデザインに挑戦
更新
トヨタ自動車の世界販売台数 「保守的」といわれていたトヨタ自動車が変貌を遂げている。豊田章男社長がトップに就任して約3年半、社内外に「いいクルマ、楽しいクルマを作る」と原点回帰の方針を示し続けたことで、販売台数増や収益ばかりに固執していた社内の雰囲気が一変。クルマづくりに軸足を戻し、品質管理やデザイン面などで成果が出ている。昨年は世界販売で再びトップを奪還した“巨艦”トヨタの変化の裏に何があったのか。
「リボーン(生まれ変わり)を伝えるにはチャレンジも必要だ」。昨年12月25日、第14代の新型「クラウン」発表会で、豊田社長はトヨタの「変化」ぶりをことさら強調した。
それを示すのが、まず発表会場。東京での新車発表はこれまで、都心のホテルや自社施設がほとんどだったが、今回は若者が集まる複合商業施設「渋谷ヒカリエ」(東京・渋谷)だ。
変化を強調するサプライズも演出した。会見終盤に登場したのはピンク色のクラウン。「とち狂った」との陰口もささやかれたが、豊田社長は「みんなの総意で(ピンク色も販売することが)決まった」と述べた。デザイン面でも、大きなフロントグリルと王冠マークを使うなど個性を前面に押し出した。
大胆なデザイン変更は、昨年11月に一部改良した高級車「レクサスLS」でも採用。フロント部分を一目で識別できるデザインに刷新。8月に発売した小型5ドア車の新型「オーリス」でも、フロント部分に「キーンルック」と呼ばれる先鋭的なデザインを採用した。これは今夏に米国で発売する新型「カローラ」にも採用される見通しだ。
トヨタが変化を志すきっかけとなったのが、2009~10年に起きた米国での大規模リコール(回収・無償修理)だ。
同社は07年ごろまでは米国を中心に海外工場を次々に新設。08年3月期に売上高26兆2892億円、営業利益2兆2703億円と過去最高の決算を達成し、07年の販売台数も世界一と絶頂期を迎えた。
だが、その直後にリーマン・ショックが起き、翌年の大規模リコールと立て続けに問題が発生。09年3月期に戦後初の営業赤字計上を余儀なくされた。特にリコール問題では顧客対応が遅れ集団訴訟を起こされるなど「顧客目線が欠落していた」(同社幹部)ことが露呈した。
実際、豊田社長は米議会公聴会でリコール対応を追及された際「私の就任前は(会社の)成長が早すぎて人材育成のスピードを上回っていた」と述べた。
豊田社長はこの時点で、顧客目線に立つと同時に、原点に戻ってクルマづくりを見直そうと決断したようだ。
顧客目線では、品質管理費用として昨年度は約4300億円と、ここ約3年半で約2.5倍に増やした。「『走る』『曲がる』『止まる』の基本性能に少しでも疑いがあれば、ためらうことなくリコールする」(同社幹部)方針を掲げる。
この延長線上として、昨年12月26日には米国の大規模リコールをめぐる集団訴訟で、自動車業界としては過去最大の約940億円にのぼる和解案に合意した。時間をかけて争うよりも、顧客重視の姿勢を示すためとみられる。
デザイン面の変化は、人事面から表れた。ミニバンの初代「エスティマ」などのデザインを担当し、グループの関東自動車工業の執行役員に転身していた福市得雄氏を11年1月に本社の常務役員に就けた。子会社の役員を本社に戻すのは同社としては異例だ。
この結果、「(豊田社長就任以降は)個性を反映しやすい体制になった」(開発部門担当の吉田守孝常務役員)。実際、役員や一般社員の評価がベースとなっていたデザインなどの決定は「チーフエンジニアの思いが強く反映できている」(吉田常務役員)という。
ピンクのクラウンに象徴される改革は、今年の販売台数が12年見込み比60万台減の280万台程度に縮小すると見込まれる国内登録車市場を再活性化させると同時に、個性的なデザインを武器とするドイツや韓国勢などへの対抗策ともみられる。
これまで燃費性能などで他社をリードしてきたが、ライバルの追い上げもあって「ブランドを主張しないと世界で埋没してしまう」(レクサス製品企画の渡辺秀樹チーフエンジニア)との危機感にほかならない。
ただ、個性的なデザインや、負のイメージがつきまとうリコールを躊躇(ちゅうちょ)なく申告する方針がすぐにプラスとなるかは不透明。昨年は2年ぶりに世界販売首位に返り咲き、年間生産・販売1000万台も視野に入る中で、大胆な改革は危機感の裏返しともいえそうだ。(飯田耕司)