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NTTなど通信大手、ベンチャー支援相次ぐ “ユニーク発想”囲い込み

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NTTなど通信大手、ベンチャー支援相次ぐ “ユニーク発想”囲い込み

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ベンチャー企業への投融資額と社数  NTTやKDDIなど通信大手が、相次いでベンチャー企業の支援に乗り出している。資金や事業支援などを行い、有力企業には出資も視野に入れている。背景にあるのが、スマートフォン(高機能携帯電話)の普及だ。

 携帯電話に占める比率が6割を超えるスマホビジネスが通信各社の収益を大きく左右するようになり、アプリケーション(アプリ)やサービス開発などで、ベンチャーならではのユニークな発想や開発のスピードを取り込む狙いだ。米国に比べ遅れている日本の起業支援が、これを機に広がっていくことが期待されている。

 「もっとお金を使います」

 KDDIの田中孝司社長は1月30日、ベンチャーの“聖地”ともされる東京・渋谷の渋谷ヒカリエで、ベンチャー企業を対象とした支援活動の発表会でこう宣言。集まったベンチャー関係者ら約300人から拍手と歓声を受けた。

 この活動名は「ムゲンラボ」。世界に通用するネットサービスの開発と実用化に向けた3カ月間にわたる支援プログラムだ。プログラムではアプリ開発で内容を競い、最優秀企業を選ぶ。その過程ではKDDI社員のサポートを受けて、本格的なビジネス展開に向けた事業、財務計画なども策定する。

 3回目となる今回は5社が成果を発表。チケット発券が不要となるサービスを開発したベンチャーが最優秀として選ばれた。各チームのアプリは、KDDIのアプリサイト「auスマートパス」内で今月から順次ダウンロードできる。

 スマホ向けサービス充実へ出資も視野

 KDDIに続き、NTTドコモも7日、同様のベンチャー支援制度を発表した。「イノベーションビレッジ」と名付けたこの制度は、さまざまなビジネスモデルや技術、アイデアを持つ企業や個人を支援。初回は7日から3月11日まで参加を募る。選ばれれば200万円の助成金を受けオフィスも提供されるほか、ドコモなどから開発や経営に関する助言も受けられる。「スマホ向けサービスの充実を図る」(中山俊樹執行役員)のが狙いで、約5カ月間の開発期間中に優秀なアプリやサービスを開発した企業には出資も視野に入れている。

 ソフト開発迅速化

 両社がベンチャー囲い込みに力を入れるのは、スマホ事業の競争激化が背景にある。ハードだけでなく、魅力的なコンテンツを提供しなければ他社に顧客を奪われかねないため、外部の力を借りて迅速なソフト開発を目指している。

 日本の起業基盤は脆弱(ぜいじゃく)だ。ベンチャーエンタープライズセンターによると、ベンチャーキャピタル(VC)による投融資額は2011年度で1240億円と、米国に比べ約20分の1に過ぎない。海外のベンチャーはVCに支えられて成長し、国境をまたいで活躍している例も多い。

 これに対し、日本のスマホ向けアプリやネット用コンテンツなどを開発する企業では、資金不足などから「作成者がワーキングプアになっている」(ITベンチャー経営者)のが実情。これを打破しようと、自社のサービス多様化、差別化を狙ってベンチャー支援に乗り出しているという構図だ。

 「自前主義」に限界

 ベンチャー支援はスマホ関連以外にも広がり始めた。ポータルサイト「goo」を運営するNTTレゾナント(東京都港区)は1月22日、東京・品川でコンテンツ開発の表彰イベントを開催した。3回目となる今回の目玉が「ハッカソン」という催し。イベント前日から2日間にわたり、ユニークで利便性の高いプログラム開発を競う。これには61人の技術者が参加し、このうち半分がNTTグループ外の人間と、外部との連携も重視している。

 イベント開催の出発点は「自前主義だと限界がある」(ソーシャルサービス部門の河村智司主査)と感じたためだ。会場内ではNTTグループとベンチャーの個別のマッチングも行われ、河村主査は「連携強化によってスピーディーに物事が進んでいくはず」と期待を寄せる。

 ドコモも、NTTグループでベンチャー投資ファンドの運用管理を行うNTTインベストメント・パートナーズの全株式をNTTから譲り受け、新たなファンド運営会社「ドコモ・イノベーションベンチャーズ(DIV)」を今月下旬に設置。同時に、運用総額100億円のVC「ドコモ・イノベーションファンド投資事業組合(DIファンド)」も設立する。

 スマホ関連に限らず、広く情報通信関連のベンチャー育成に乗り出し、「グローバルな視野で開発を目指す人を支援していく」(中山執行役員)方針だ。

 このほか、フジ・メディアホールングスは、コンテンツ事業を強化するため、ベンチャー支援の新会社を設立。監査法人トーマツグループのトーマツベンチャーサポートは、「決裁権を持つ大企業の担当者とベンチャーの社長をいかにつなげるか」(斎藤祐馬事業開発部長)が重要と考え、“出会いの場”の提供に力を入れる。

 安倍政権の経済政策は、産業の競争力向上が大きなテーマとなっている。日産自動車出身で電動車椅子メーカー「WHILL」(東京都品川区)を立ち上げた杉江理CEO(最高経営責任者)は「大手企業とベンチャーの組み合わせは日本経済の底力の強化につながる」と指摘する。

 今のところスマホやネット関連にとどまっているベンチャーへの投資機運が、モノづくりなどに広がっていくことが期待される。(伊藤俊祐、松元洋平)

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