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老舗旅館や工場でクラウド活用 従業員間の情報共有など効率化
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クラウドコンピューティングや情報端末を使い、急な宿泊内容の変更などを確認する老舗温泉旅館「陣屋」の従業員=神奈川県秦野市(同館提供) 長い伝統を持つ「老舗」の旅館や工場で、業務効率改善のため最新鋭のクラウドコンピューティングを活用する動きが広がっている。顧客のニーズを瞬時に把握、共有することでサービス向上を図るほか、従業員同士の連絡にSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)を用い、通信コストも削減。収益力を強化する狙いだ。
「クラウドで顧客情報や業務状況が『見える化』し、各従業員が全体的な視野で行動できるようになった」。神奈川県秦野市の温泉旅館「陣屋」の宮崎富夫社長はこう語る。
同館は大正7(1918)年創業の老舗。これまで得意先や常連宿泊客の顧客情報は「女将(おかみ)とベテラン従業員の頭の中だけにあった」(宮崎氏)うえ、宿泊予約は複数の紙台帳で管理。女将が急に欠勤したり、紙からの写し間違いがあると、旅館全体の業務が滞った。宿泊プランの急な変更に対し、各部門で情報が共有できず、従業員が右往左往するケースもあったという。
同館は約3年前に米クラウド大手「セールスフォース・ドットコム」のシステムを導入。今では約80人の従業員全員が米アップルの「iPad(アイパッド)」や「iPhone(アイフォーン)」を使いこなし、クラウド上で業務連絡を行う。
接客係が宿泊客に嫌いな食べ物を聞きSNSに書き込むと、調理場のモニター画面に瞬時に情報が伝わり、献立を変更できる。SNSは従業員全員が見るため、発信者が複数の関係者にたびたび連絡する手間も省けた。
こうした業務効率の改善で、年間の人件費はクラウド導入前に比べ約16%減り、逆に売上高は40%増加したという。
1913年創業の瓦製造会社「三州野安」(愛知県高浜市)も2年半前にクラウドを導入。営業マンがタブレット端末を持ち、外出先で受注管理や請求書作成を行えるようになった。今後は主要取引先をクラウド上のネットワークに呼び込み、「ウェブ上で直接売買できる仕組みを作る」(同社)といい、“ペーパーレス化”をさらに進める。
愛知県北名古屋市の製菓業「桃の館」も製造工場や小売店間の業務連絡にクラウドを活用。電話やファクスの回数が減り、通信費を従来の3分の1に圧縮したという。
社内に固有のサーバーを置かず、インターネット上でデータを管理するクラウドは当初、ITの専任担当者を置く大企業を中心に導入が進んできた。だが、サービスの低価格化や東日本大震災を受けた災害対策などから、ここに来て中小企業も導入を進めつつある。
調査会社IDCによると、2012年の国内クラウドサービスの市場規模は前年比44.8%増の933億円。17年には現在の3倍超の3178億円に膨らむ見通しだ。(渡部一実)