SankeiBiz for mobile

“川重クーデター”の背景 東京と神戸に拠点…意思疎通に距離感

ニュースカテゴリ:企業の経営

“川重クーデター”の背景 東京と神戸に拠点…意思疎通に距離感

更新

川崎重工業の神戸本社「神戸クリスタルタワー」=神戸市中央区(本社ヘリから)  三井造船との経営統合交渉を進めた前社長ら取締役3人を統合反対派が電撃解任した川崎重工業。“クーデター”の背景には、個々の事業部門が独立して強い権限を持つカンパニー(事業部)制という組織形態に加え、東京と神戸に拠点が分かれる物心両面の距離感があった。次期社長レースをめぐる勢力争いも影を落としたとの見方も出ている。

 “多頭経営”の弊害か

 「川崎重工は(取締役)みんなに代表権がある独特の経営形態。だからオープンな話し合いが必要だし、私が現役のときはそうやってきた」

 川重のある役員OBはため息をついた。

 同社は6月13日に開いた臨時取締役会で、長谷川聡社長と企画担当の高尾光俊副社長、広畑昌彦常務(肩書はいずも当時)を解任する緊急動議を10対3の賛成多数で可決した。3氏は三井造船との経営統合を水面下で進めていた。

 企業では代表権をもつ取締役は自分の署名で契約、決裁が可能。大企業でも会長や社長、副社長、よくて専務までしか代表権は与えられない。

 ところが川重の場合、解任前は13人のうち10人が代表権をもっていた。同社は鉄道車両やガスタービン、航空宇宙、二輪車などのカンパニーで構成する複合企業体であることから、各カンパニーの独立色が強いためだ。各取締役は「カンパニープレジデント」として独立採算で運営に当たっている。

 東京-兵庫の距離感

 川崎重工は神戸が発祥の地。カンパニーごとに製造拠点の立地などから、東京を拠点にする役員と神戸(兵庫県内)を拠点にする役員に分かれる。解任された3氏はいずれも東京勤務が長い一方で、神戸勤務が長い役員は反対派へと分かれた。

 大手証券マンは「経営統合という一大事はスピード感と勢いが大事」と指摘。「関係ない取締役に知らせずに交渉を進めることは当然ある」という。一方で、川重の役員OBは「統合という一大事なら根回しが必要だ。(長谷川氏は)根回しは慎重にやったんだと思うが、もっと(他の取締役と)コミュニケーションすべきだった」と説く。

 関係者によると、三井造船、川崎重工両社の取引銀行が主導する形で、経営統合を画策する動きは7~8年前からあったという。ただ、川重は一貫して「メリットがない」と消極的で、今年4月に統合交渉入りが報じられるまで統合が具体化することはなかった。

 そうした中で急遽(きゅうきょ)明るみに出た統合交渉と、その後に敢行された川重のクーデター。東京-神戸の意思疎通が十分図られなかったのも一因といえそうだ。

 社長レースも影?

 ただ、金融関係者は川崎重工のガバナンス(企業統治)体制がしっかり働いた結果だとみる。「関西には実力のあるトップが経営を実質的に仕切る“ワンマン”経営の優良企業が少なくない。しかし、川重の場合、少数意見を押し通そうとする社長の『暴走』を止めることができたと社内外にアピールできる」というのだ。

 一方で、次期社長レースが引き金になったという、うがった見方もある。川崎重工は代々、収益性や成長性が最も高いカンパニーから社長が誕生してきた。長谷川氏は高収益を上げるガスタービン・機械部門の出身だ。

 新たに社長に就いた村山滋氏は、日系メーカーの炭素繊維を使った飛行機胴体などが好調な航空宇宙部門を率いてきた。

 「明るくてオープン」と評される村山氏は自他ともに認める社長候補だった。しかし、三井造船との経営統合が実現すれば状況は変わってくる。

 川重の造船事業は規模が社内最小のカンパニー。それが統合により、2社を合計した造船事業が一気に最大部門に躍り出ることへの抵抗感が、他のカンパニープレジデントにあったとしても不思議ではない。

 26日の株主総会で大橋忠晴会長は退任する。村山社長の真の経営手腕が問われそうだ。(南昇平、織田淳嗣) 

ランキング