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【底流】「日本流」対立の溝埋まらず ANA、エアアジアと合弁解消
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価格破壊で話題を呼んだ日本の格安航空会社(LCC)が岐路を迎えている。ANAホールディングス(HD)と、マレーシアのLCC大手エアアジアが、不振が続く合弁事業の解消で合意した。ANAHDは、両社が共同出資するLCCエアアジア・ジャパンを完全子会社化する。破談に至ったのは、日本流ビジネスをめぐる対立の溝を埋められなかったからだ。
「安心して仕事してほしい」。一部報道で合弁解消が報じられた翌日の今月11日、社員の動揺を心配したANAHDの伊東信一郎社長は、成田空港内のエアアジア・ジャパン本社に駆けつけ、集まった社員に語りかけた。だが、多くの社員は冷静に受け止めており、むしろ合弁解消を歓迎しているかのようだった。
エアアジア・ジャパンは昨年8月に就航し、現在8路線を運航している。ANAHDが51%、エアアジアが49%を出資。社長はANAHD出身者が務め、事業運営はLCCのノウハウのあるエアアジアが主導してきた。
合弁解消の理由は利用客の低迷だ。座席の埋まり具合を示す月別の利用率は、直近でも53%台と採算ラインとされる約7割を割り込んだまま。84%に達する同じANA系のLCCピーチ・アビエーションとは対照的だ。
主要拠点に成田空港を選んだことが響いた。成田は騒音問題を抱え、夜11時以降は原則、離着陸できない。1日に何度も航空機を往復させて利益を絞り出すLCCは、“門限”に戻れなければ翌朝の初便が欠航するなどの打撃を受ける。運航ダイヤが正確な日本の空の旅に慣れた利用客が離れる一つの要因となった。
LCCの生命線といえるコスト削減の手法でも、両社の溝は埋まらなかった。エアアジアなど海外の一般的なLCCは、航空券販売をウェブサイトによる直販にほぼ特化している。ただ、日本では旅行会社経由の販売の比重が大きい。そこでピーチは直販にこだわらず、旅行会社15社に航空券を卸している。エアアジア・ジャパンも1月から、中堅旅行会社のビッグホリデーに航空券を卸し、3月の利用率は76%台に増えた。
ところが、「『コストがかさむ』とマレーシアの本社が待ったをかけた」(関係者)こともあり、4月以降の利用率は急降下した。
サイト運営でも振り回された。費用節約のためにエアアジアと共通化したサイトは当初、英語が多用されるなど日本人にとって使い勝手が悪かった。エアアジア・ジャパンは昨年末から約80項目にわたる改善に着手しているが、4分の1しか実行できていない。エアアジアのサイト担当者が他の国のサイトと掛け持ちしており、対応が遅いためだ。
合弁解消は、業績低迷に業を煮やしたエアアジアが持ち出した。25日に合弁解消を発表したANAHDの清水信三上席執行役員は「エアアジアの売り方には限界があった」と反論。社員の一人は「マレーシアとの文化の違いに翻弄され、やりたかったことができなかった」と振り返った。
一方で、エアアジアのトニー・フェルナンデス最高経営責任者(CEO)は「真のLCC事業に注力する」との声明を出し、意見の隔たりの大きさをうかがわせた。
フェルナンデスCEOは音楽業界から転身し、2001年に経営破綻状態にあったエアアジアを1リンギット(約30円)で買い取った。コスト削減を徹底するLCCビジネスの基本を忠実に守り、成功した。こうした体験が、日本流への拒否反応になったとみられる。
ANAHDはエアアジアに代わる新ブランドを7月中に決める方針だ。ピーチとの統合も取り沙汰され、清水上席執行役員は「あらゆる可能性を検討する」と述べ、含みを残した。
もっとも、好調なピーチも最大の目標である単年度黒字化はまだ達成していない。井上慎一CEOは「エアアジア・ジャパンを仲間と思っていない。一緒になるのも迷惑」と述べ、自社の経営を軌道に乗せることに注力する。
エアアジアも昨年、欧州路線から撤退するなど順風満帆ではなく、成長を続ける東アジア路線での撤退は考えていない。日本での新たな提携先を模索しており、数社に打診しているもよう。チャーター機事業を手がけるエイチ・アイ・エス(HIS)などが浮上しており、LCCをめぐる国内勢力図が塗り変わる可能性もある。