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鉄道輸送に「擦れ防止カートン」 PET飲料でキリンビバレッジ考案

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鉄道輸送に「擦れ防止カートン」 PET飲料でキリンビバレッジ考案

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キリンビバレッジは400キロ以上の中長距離輸送をトラックから鉄道に切り替えている  鉄道輸送の品質確保に一助

 地球環境に与える負荷が比較的低いとされる鉄道輸送。国土交通省によると、同じ貨物を同じ距離運んだ場合、トラック輸送と比べ二酸化炭素(CO2)排出量を6分の1以下に抑えられる。キリンビバレッジが考案した「擦れ防止カートン(段ボール箱)」は、そうした鉄道輸送の品質を高める工夫から誕生した。トラックから鉄道への切り替えを促す一助として物流関係者の注目を集めている。

 揺れが生じる区間を究明

 「トラック便なら問題ないのに、貨物列車はカートンの『擦れ』が多い。どうにかならないか」。5年ほど前、キリンの物流部門からこんな悲鳴が上がった。鉄道コンテナに積み込んだ大型ペットボトル(1.5~2リットル)飲料のカートンが輸送中にこすれ合い、箱の損傷や印刷の汚れが頻発していたのだ。

 カートンは商品の保護材であると同時に、顧客からは商品の一部としてみられる。中身に問題がなくても、ひどく傷んだ場合は納入を拒否されることが多い。その場合は出荷先で新しいカートンに詰め直さざるを得ず、必然的に輸送コストの増加を招く。

 キリンは環境保護への取り組みの一環として、400キロ以上の長距離輸送はトラックから鉄道への切り替えを進めていたこともあって、頭の痛い問題だった。

 その原因究明と課題解決に取り組んだのは2009年秋。任されたのは生産本部技術部の吉井孝平主任。同社きっての鉄道ファンで「発生メカニズムを徹底解明するため、貨物列車への同乗も行った」と振り返る。

 同社の大型ペットボトル飲料工場は、湘南(神奈川)、御殿場(静岡)、松本(長野)、彦根(滋賀)の4カ所。カートンの「擦れ」が特に頻発していたのは、湘南工場が輸送に使う神奈川・平塚から札幌のターミナルまで運ぶ貨物列車だったが、調べた結果、盛岡までは異状がないことが判明した。

 そこで、吉井氏は「青函トンネルの前後に原因が潜んでいる」と推測。同乗調査で、本州側の津軽線と北海道側の江差線は単線区間のため分岐ポイントが多く、計50カ所以上で横揺れなどの振動に見舞われることが分かった。五稜郭駅で確かめると、やはり30%以上のカートンに擦れが生じていた。

 再現実験でデータ収集

 原因究明の次は課題解決だ。輸送用パレットにセンサーを取り付けて列車に積み、擦れが生じる際の加速度や周波数を計測。集めたデータをもとに社内研究所で再現実験を行い、有効な防止策を立てるためだ。その結果、最終的に採用したのは箱そのものに施す2つの工夫だった。

 まず、擦れが生じやすいカートン側面の上下部分に滑り止めニスを塗布した。また、その部分には何も印刷せず、たとえ擦れても目立たないデザインに変えた。すると擦れの発生は0%。ニスは缶ビールのカートンに使う既存品なので、追加コストはほとんどかからない。こうして「擦れ防止カートン」が誕生した。取り組み開始から約1年後の10年夏、従来品からの切り替えが正式に決まった。

 吉井氏は今月19日、メーカーや物流業界関係者を集めた勉強会に講師として招かれることになった。包装業界の機関誌に「擦れ防止カートン」が紹介されたことが契機となり、貨物利用の増加を目指す鉄道関連団体が企画した。吉井氏は「長距離輸送の品質確保はメーカーにとって大きな課題。われわれの努力の結果が活用されることで、環境保全に少しでも役立てば」と期待する。(山澤義徳)

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