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三菱重工業のCO2回収装置 肥料増産、老朽油田の再生に道
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米国アラバマ州の石炭火力発電所に設置された三菱重工業のCO2回収装置(同社提供) 世界各国で地球温暖化防止に向けた取り組みが進む中、三菱重工業の「二酸化炭素(CO2)回収装置」が注目を集めている。ガスや石炭の火力発電プラントなどから出る排ガスのCO2を吸収するだけでなく、回収したCO2を再利用することで肥料の原料である尿素などの生産増につなげられるためだ。老朽化した油田にCO2を送り込んで原油を増産することも可能で、今後、米国や東南アジアなどで売り込みを図る考えだ。
「将来、地球温暖化が問題になると思って20年以上やってきて、ようやく花が開いた。世界トップの回収技術だ」
三菱重工業エンジニアリング本部長の西沢隆人常務執行役員は胸をはる。7月には日本産業機械工業会による「優秀環境装置表彰」で経済産業大臣賞に選ばれた。
同社のCO2回収装置は、関西電力と共同で開発した高性能の吸収液を用いるもので、他社の方式と比べてエネルギー消費量が少ない。1990年から研究をスタートし吸収液の減量や装置のコンパクト化なども進めてきた。
2011年には米国の電力会社サザンカンパニーと協力し、アラバマ州の石炭火力発電所で回収能力が1日500トンを誇る大型の装置を建設、実証試験に取り組んでいる。
回収装置の仕組みは、発電プラントなどから出た排ガスを吸収塔に送って冷やし、吸収液と接触させることでCO2を分離し、吸収液に取り込む。その上で、吸収液を加熱するなどしてCO2を回収する。排ガスはクリーンな状態で大気中に放出できる一方、回収したCO2は非常に純度が高いことから、化学品の原料やドライアイスなどにも利用できるようになる。
99年以降、世界で10基を納入。商用のCO2回収装置としては世界トップの実績を誇っている。
三菱重工は肥料製造プラントに強みを持っている。肥料プラントは天然ガスを原料に尿素を生産するが、その際、CO2が足りなくなることがある。回収装置を使えば、回収したCO2を使って尿素の生産量を増やすことができるため、肥料プラントなどに装置を併設するケースが多いという。
回収装置の新たな需要として見込んでいるのが、地球温暖化対策と原油の増産を両立させる「原油増進回収法(EOR)」だ。
時間がたった油田は原油の回収率が低下するケースが少なくない。そこに、プラントなどから回収したCO2をパイプラインなどを経由させて油田の油層に送り込めば、地下に残っている原油をより多く回収できる。油層に押し込んだCO2はそのまま地中にたまるため、地球温暖化防止の取り組みとしても効果がある。
西沢常務執行役員は「企業は国などからの助成金がないと地球温暖化の取り組みを進めにくい。だがオイルの増産につながれば(企業にも)メリットが出てくる」と強調する。
米国のオバマ大統領はCO2の排出量削減に向けた行動計画を打ち出しており、電力会社にとっては石炭やガス火力発電の際に出る排ガス中のCO2をどう処分するかは重要な問題だ。三菱重工の回収装置を使えば、CO2を油田を開発する会社などに売却することも可能になる。西沢常務執行役員は「米国のほか、中東、東南アジアなどにも石油が枯れている井戸がある」とビジネスチャンスを見込んでいる。(田村龍彦)