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電力各社、再値上げへ秒読み 想定崩れ、コスト削減限界…経営危機を回避に
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経営危機の回避に向け、電力会社が今年度中にも電気料金の値上げ判断を迫られそうだ。電力10社の2013年4~6月期連結決算は、北陸電力を除く9社が経常赤字に転落。原発停止に伴う火力発電の燃料費の増加が、各社の経営に重くのしかかっている現状を鮮明にした。しかも、収益改善の切り札となる原発再稼働は、原子力規制委員会による安全審査で「想定外」の遅れが目立つ。収益底上げのため、各社が進める経営合理化やコスト削減が早晩息切れする可能性は大きく、すでに値上げに動いた電力会社も、再値上げへのカウントダウンが始まっている。
「赤字幅は縮小できたが、安全性が確認できた原発が再稼働しないと黒字化は難しい」
5月に家庭向け電気料金を、9.75%値上げした関西電力の八木誠社長は7月末の会見で、値上げによる増収効果を認めつつも収益改善の抜本的な解決にならないとの考えを強調した。
原発停止による燃料の増加分を補うため、東京電力は昨年9月、家庭向け電気料金を8.46%値上げした。九州電力も5月に6.23%値上げしており、9月からは北海道電力、東北電力、四国電力の3社も家庭向け電気料金の値上げに踏み切る予定だ。
料金値上げに加え、コスト削減や合理化に取り組んだことから、東電や関電、九電は経常赤字の幅が縮小。給与カットなどで中国電力と四国電力でも赤字額が減り、数字上では収益悪化は食い止められたかにみえるが、円安進行もあり、経営環境に好転の兆しはみえない。
一方、円安の進行は値上げに踏み切っていない電力会社にも追い打ちをかけ始めている。国の審査を受ける抜本的な料金値上げとは別に「原燃料費調整制度(燃調)」という石油や液化天然ガス(LNG)の輸入価格を料金に自動反映する制度があるが、転嫁幅に上限がある。上限を超えた分は電力会社が負担する仕組みだが、発電能力に占める原発の割合が低く、値上げを表明していない中部電力は7月30日、輸入価格の値上がりが転嫁幅(基準価格の1.5倍)を超えたため、9月の電気料金が上限に達したと発表した。
「期初から相当厳しいということは覚悟してきた」。中部電の水野明久社長は赤字幅が拡大した決算をこう総括し、経営効率化の深掘りに取り組む姿勢を強調したものの、上限を引き上げるには抜本的な値上げを申請するしか方策は見当たらない。
値上げに動いた6社の電気料金の算定は原発の再稼働が前提。東電は昨年まとめた「総合特別事業計画」で、柏崎刈羽原発(新潟県)の2基を4~5月に再稼働すると想定していたが、新潟県の泉田裕彦知事との会談が決裂したことで安全審査の申請すらできず、膠着(こうちゃく)状態が続く。東電は必達目標として16年3月期での経常黒字化を掲げているが、「柏崎刈羽原発が再稼働しなければ非常に厳しい」(広瀬直己社長)状況にある。
現在進行中の規制委の安全審査は順調にいっても半年程度かかるとされる。関電の高浜原発3、4号機(福井)、九電の川内原発1、2号機(鹿児島)、四国電の伊方原発3号機(愛媛)は7月の再稼働を想定していたが、すでに予定時期を過ぎており大幅に遅れることは確実だ。
原発再稼働が見込めず、燃料費が膨らみ続けると東電だけでなく、関電など複数の社が3期連続の赤字に陥る恐れがある。「3期連続で赤字なら、金融機関からの新たな資金調達が難しくなる」(大手電力幹部)恐れがあるだけに焦りが募る。
九電の瓜生道明社長は「再稼働時期をもう少し見極めなければならない。現時点では(再値上げは)全く白紙」と事態の推移を見守る姿勢を示すが、四国電の千葉昭社長は「年が明けても(原発の)稼働が見通せない場合、再値上げを検討する必要がある」と指摘する。北海道電の川合克彦社長も「(原発が)止まり続ければ当然可能性も出てくる」と再値上げに含みを残す。
電気料金の落ち着きが見通せない状況に対して、経済産業省幹部は「電気代がさらに上がれば、企業が生産拠点を海外に移すなど、産業空洞化につながりかねない」と強い警戒感を示す。
相次ぐ値上げには消費者の反発も予想されるが、各社の経営体力の消耗は激しい。タイムリミットが迫る中、料金値上げは一段と現実味を帯びてきた。(橋本亮)