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【底流】三菱重「3兆円の壁」 社運かけたMRJ、飛躍のカギ握る

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【底流】三菱重「3兆円の壁」 社運かけたMRJ、飛躍のカギ握る

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 三菱重工業が売上高5兆円に向けて動き出した。10月に行う大規模な組織改革では「縦割り」を排除し、収益力を強化。来年1月には日立製作所と火力発電事業を統合して、米ゼネラル・エレクトリック(GE)など欧米勢に真っ向勝負を挑む。だが、成長を牽引(けんいん)するはずの国産初の小型ジェット旅客機「MRJ」の開発が遅れるなど、行く手にはリスクも立ちはだかる。

 「3兆円の壁」

 「なるべく早い時期に5兆円にいかないと、世界で存在感がなくなる」。宮永俊一社長は、「国内首位」の造船・重機メーカーから新しい段階に移る条件として売上高5兆円を掲げる。

 この20年近く、三菱重工の売上高は3兆円前後を推移してきた。「失われた20年」に突入した日本経済同様、成長の歩みを止めたかのようだ。

 宮永社長は「日本をベースに世界展開できる企業にどう変わっていけるか。そのスタートポイントに来ている」と力を込める。

 競合するGEの売上高は14兆円超、独シーメンスは10兆円。新興国を中心に発電など三菱重工が得意とする社会インフラ事業のニーズが高まる中、このままでは欧米勢との競争で埋没し、成長機会を失いかねないとの危機感がある。

 売上高が伸び悩んでいた原因は、事業本部・事業所制の下で、会社全体のシナジーが発揮しにくくなっていたためだ。各事業本部が個々の利益を追求して“縦割り”が生じ、人材や経営資源が分散していた。

 同じ取引企業でも事業所によって違う口座を使い、ばらばらに発注していたことから、調達先の口座が社員数(約3万人)より多かったというエピソードもある。コスト意識の低さは熾烈(しれつ)な国際競争では命取りになる。

 自前主義からの脱却

 10月から実施する組織改革では、船舶・海洋や原動機、原子力、航空宇宙など8つある事業本部を「エネルギー・環境」「交通・輸送」など4つのドメイン(領域)に再編。技術や供給サイドではなく、市場や顧客の目線に立って事業展開し、調達や人員配置などでの連携も加速する狙いがある。

 新興国では発電プラントの設計から建設まで総合的な解決策の提供を求められるケースが多いが、ドメイン制になれば対応しやすくなる。

 組織改革と並んで規模拡大の牽引役となるのが、成長領域への注力だ。火力発電分野での日立との事業統合は「エネルギー・環境」ドメインの強化策の核。今年5月には、航空機エンジンメーカー、米プラット・アンド・ホイットニー(P&W)の小型ガスタービン事業を買収。三菱重工は大型、日立は中型ガスタービンを得意としており、大・中・小のラインアップをそろえた。展開地域の補完効果も見込まれる。

 かつて三菱重工は自社技術を重視し、グループ内ですべてを賄う「自前主義」の印象が強かった。P&Wの小型ガスタービン事業の買収額は数百億円とされるが、宮永社長は「自社の技術は大事だが、利用できる力を自分のものにして発展させられるなら、やる価値はある」とM&A(合併・買収)に積極的だ。

 国産ジェットの誤算

 もっとも、成長への道のりは平坦ではない。8月22日、三菱重工の子会社の三菱航空機(名古屋市)は開発を進める「MRJ」の初号機の納入を1年以上延期すると発表した。開発計画の延期はこれで3度目。ブラジルのエンブラエルとカナダのボンバルディアの2強に加え、ロシアや中国の企業も参入する中、「今後、受注競争で苦戦するのではないか」との見方が業界で広がった。

 三菱重工は航空事業を成長エンジンと位置付けており、その柱が米ボーイングの1次下請け事業とMRJだ。鯨井洋一常務執行役員(航空宇宙事業本部長)は「下請けは利益もあるし、一つのビジネス。しかし、完成機メーカーを目指さないかぎり成長していくのは難しい」とMRJ開発の意義を強調する。開発費は約1800億円で、社運をかけたプロジェクトだ。

 ただ、これまでの受注は325機にとどまり、500機前後とされる採算ラインには届いていない。開発に失敗すれば、経営にも打撃を与える。宮永社長は「長期的に考えれば発展のチャンスが増える。我慢しても投資を続けないといけない」と話す。航空事業の成否が5兆円企業への飛躍のカギを握っている。

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