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スパコン「京」を製薬会社が活用 関西発の新薬誕生に期待感

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スパコン「京」を製薬会社が活用 関西発の新薬誕生に期待感

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 昨年9月から神戸市で本格稼働しているスーパーコンピューター「京(けい)」の製薬会社による活用が加速している。産業利用として採択された25件の研究主体には製薬大手が名を連ねる。年内にも同じ兵庫県内にあるX線自由電子レーザー施設「SACLA(さくら)」との連携がスタートする予定で、1秒間に1京(京は1兆の1万倍)回の計算ができる世界最高レベルの“頭脳”を駆使した新薬開発の土壌が関西で整ってきた。(藤原章裕)

 柱が1本もない50×60メートルの広々とした計算機室に、高さ約2・4メートルのラック(筐体(きょうたい))864台が整然と並ぶ。ラックには中枢部品のCPU(中央演算処理装置)を4個ずつ搭載したボード計24枚が、ぎっしり詰め込まれている。この「京」を企業が活用できる産業利用枠は全体の5%。無償だが成果の公開義務がある「無償利用」と「有償利用」があり、有償の場合、割り当てはCPUの利用数(ノード)×時間で計算し、企業は1ノード時間当たり12・68円を支払う仕組みだ。

 産業利用に採択された25件には、武田薬品工業や第一三共など製薬大手の研究テーマが入っている。京によるシミュレーション(模擬実験)は、新薬候補となる化合物の絞り込み期間が大幅に短縮でき、巨額の投資と長期間を必要とする医薬品の開発を大幅に効率化できるからだ。

 中でも、大日本住友製薬は来年3月までに、503万8080ノード時間と最も多い利用枠の割り当てを受ける。すべて使うと、利用料は総額約6400万円。京の8万8128個のCPUをフル稼働した場合、約57時間使える計算になり、活用は順調だ。

 利用目的は新薬候補となる化合物の絞り込みなど。病気にかかわる生体内のタンパク質と反応させて薬効や副作用をじっくり確認しなければならないが、同社のスパコンでは、1日で1種類の化合物の解析が限界だった。処理能力の高い京を使うことで、1日に100種類以上の化合物の解析が可能になり、同社の多田正世社長は「化合物の絞り込み期間を従来の3~3年半から2割程度短縮し、2~2年半程度にできるのではないか」と試算する。

 さらに、京とともに兵庫県佐用町の播磨科学公園都市にある大型放射光施設「スプリング8」や「SACLA」を所有する理化学研究所は、SACLAと京をインターネット回線でつなぎ、SACLAのデータを京で解析する実験を近くスタートする。

 タンパク質の一瞬の動きや変化について、原子レベルでとらえるSACLAが撮影した大容量の瞬間画像を3D(立体)化したり、瞬間画像をもとにタンパク質の動きをシミュレーションしたりするには高速処理できるスパコンが便利だ。例えば従来のスパコンではSACLAの画像処理に約2時間かかっていたが、京なら約20分で処理できる。スプリング8との連携も視野に入っており、化合物がタンパク質にどう作用するかを克明に解き明かすことができれば、日本発の新薬が関西から相次ぎ生まれる可能性が広がる。

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