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LIXIL、海外M&A拡大の勝算は? 国内市場縮小に危機感
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LIXILグループの連結業績 住宅設備国内最大手のLIXIL(リクシル)グループが、海外企業の買収で一段と攻勢を強めている。9月下旬には約29億3500万ユーロ(約3816億円)の巨費を投じ、欧州で高いブランド力を誇る住設機器大手「グローエ」を買収する方針を決定。国内市場の縮小が不可避な中、米ゼネラル・エレクトリック(GE)出身で2011年に就任した藤森義明社長が主導し、海外事業の強化に向けて「時間を買う」戦略だ。ただ、積極的なM&A(企業の合併・買収)の活用は財務バランスの悪化リスクをはらむ上、買収先の収益性をどう成長させるかが課題。拡大策の勝算に注目が集まっている。
「水栓金具はこれまで、リクシルグループの製品では弱かった。グローエ買収によって、水回りのすべての製品が整ったことになる。同時に、世界展開の基盤もできあがったといえる」
グローエ買収を発表した9月26日の記者会見の席上、藤森社長はこう胸を張った。グローエは1936年創業で、ドイツ・デュッセルドルフに本社を置き、キッチンや浴室、洗面室で使う水栓金具では欧州で最大手だ。
リクシルは日本政策投資銀行と共同で、2014年前半をめどにグローエの株式の87.5%を取得する。買収総額にはグローエの負債肩代わり分も含まれる。リクシルによる海外でのM&A案件としては今回が過去最大規模となる。
グローエは当初、リクシルの持ち分法適用会社となるが、藤森社長は3~5年後をめどに政投銀の持ち分を取得して子会社化することへの意欲も示した。
リクシルは成長のために海外事業を強化しようと、ここ数年は藤森社長のもとで矢継ぎ早にM&Aを手がけてきた。
11年12月には、イタリアのカーテンウォール大手のペルマスティリーザを608億円で買収。さらに今年8月には、531億円を投じて、北米で衛生陶器首位のアメリカンスタンダードの買収を完了し、完全子会社化したばかりだ。アメリカンスタンダードに続き、世界的にブランド力のある老舗のグローエを傘下に収めたことは、リクシルの海外展開に大きな弾みとなる。
一方、財務面への負担を懸念する声もある。日本格付研究所(東京都中央区)は9月27日、「(リクシルの)財務構成は近年の積極的なM&Aで以前よりも悪化しており、(グローエ買収が)さらに財務に負荷をかけることは否定できない」と指摘し、リクシルの格付けにネガティブな要素になるとの認識を示した。
リクシルの自己資本比率は10年3月末に約50%あったが、ペルマスティリーザ買収などの案件が重なり借入金が増えたこともあり、12年3月末には35.7%まで低下し、直近の13年6月末では38.1%だ。
それでも自己資本比率はまだ高い水準にあるといえるが、市場には相次ぐ大型買収への不安があるのも事実。9月24日にグローエの買収情報が伝わると、リクシルの株価が下落する場面があった。
今後のリクシルの課題について、野村証券の福島大輔アナリストは「買収後にしっかりとマネジメントして、相乗効果を出すなどし、(買収先の)売上高や利益の成長を図ることができるかどうかだ」と指摘。藤森社長も、グローエ買収の発表会見で「海外での大型M&Aはこの辺で一休みして、内部成長を考えていきたい」と話した。
リクシルは09年にアメリカンスタンダードのアジア太平洋部門を176億円で買収したが、その後、同部門の売上高や利益は伸び悩んでいる。リクシルは同部門を「LIXILアジア」として再編し、コスト削減などで巻き返しを図っている。その後に買収を決めた北米のアメリカンスタンダードや欧州のグローエも含めた成長をどう実現できるか、「藤森社長の手腕が期待される」(福島氏)といえそうだ。
少子高齢化などを背景に、国内住宅市場は中長期的に縮小が避けられない。リクシルの予測によると、12年度に89万戸だった新設住宅着工数は、消費税増税による駆け込み需要が押し上げる形で13年度は瞬間的に93万戸に達するが、その効果がなくなる14年度に84万戸、15年度に82万戸に落ち込む。
藤森社長が「日本市場はこれから大きな成長が見込めない。収益を高めていこうとすれば、やはり海外に出ていかざるをえない」と語るように、同社が海外事業の強化を急ぐ背景には国内市場が縮小することへの危機感がある。
同社の中長期経営ビジョンでは、18年3月期をめどに、連結売上高を3兆円(13年3月期実績は1兆4363億円)まで引き上げ、このうち海外売上高は1兆円(13年3月期は約2000億円)を目指す方針だ。青写真通りに行けば、海外売上高比率は約14%から3割超まで高まる。今後は買収後の成長策をどう具現化できるかも問われる。(森田晶宏)