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【底流】住宅ローン金利競争 収益性悪化…先が見えない消耗戦
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3メガバンク 住宅ローンをめぐり銀行間の競争が激化している。消費税増税を控えて住宅の駆け込み需要を狙い、利用者にとって最大の魅力となる「金利」を大手銀行が矢継ぎ早に引き下げた。新興勢力のインターネット銀行や地方銀行も、低金利や利便性を武器に顧客獲得へ切り込む。融資を増やしたい金融機関にとって住宅ローンは有望な貸し出し先だ。貸し出し拡大へ手を緩める気配はない。ただ、金利引き下げで住宅ローンの収益性は悪化しており、将来的に銀行経営の重しに転じる危うさも指摘されている。
「異例中の異例だ」
相次ぐ住宅ローン金利の改定に、銀行関係者も驚きの色を隠さない。慣例的に住宅ローン金利は、毎月1日に改定される。だが、この8月は、月の半ばに改定する銀行が相次いだ。
金利下げの先鞭(せんべん)を付けたのはみずほ銀行、三菱東京UFJ銀行、三井住友信託銀行の3行。9月1日には三菱東京UFJ銀や三井住友銀行、りそな銀行なども固定10年型を0・05%~0・2%引き下げた。
さらに10月1日にはみずほ銀、三井住友信託銀が固定10年型を0・05%引き下げるなど、薄皮をむくような小刻みの利下げ競争が続いている。
大手行は8月以降、住宅金融支援機構と提携して販売する「フラット35」を含め、金利を引き下げた。日銀が4月に導入した大規模な金融緩和で市場金利が低下し、金融機関の資金調達コストが低い水準にあることが背景だ。
しかし、金融機関にとっては低金利で利幅が薄くなった分、一定水準の収益を確保するためには、貸し出しを増やして“量”を追わざるをえない。景気回復が進む中で、設備投資などに充てる企業の資金需要はまだ本格的な回復に至っておらず、貸し出し拡大を図る銀行は、住宅ローンへの注力を余儀なくされている。
だが、相次ぐ利下げでさらなる金利競争の余地が乏しくなり、ついに競争は新たな局面に入った。
りそな銀は女性を対象にした住宅ローンを刷新し、自己資金がなくてもローンを組めるほか、ホテルやレストランなどで割引が受けられる特典を付けた新メニューを設けた。住宅ローンの新たな顧客層を開拓するのが狙いだ。
同時に“新興勢力”も勢いづく。ネット経由で契約できるサービスを展開する住信SBIネット銀行は8月下旬、営業開始から5年11カ月でローン取扱額が1兆5千億円を突破した。「想定以上のスピード達成」(広報担当者)という。また、地方都市では地銀が地元の開発案件に食い込み、地元需要を囲い込む戦略だ。
住宅金融支援機構によると、全国の都市銀行と地方銀行が取り扱う住宅ローンの残高は平成20年度末に100兆円を突破し、24年度末には110兆円を超えた。銀行の貸出残高に占める住宅ローンの割合も、10年前の20%前後から、足元は27%台に上昇するなど、貸し出しに占める住宅ローンの依存度は高まっている。
こうした中で、異例の低金利が銀行経営に及ぼす悪懸念も指摘されている。三菱総合研究所の研究グループ「住宅ローン信用リスク・データコンソーシアム」は、30行超の金融機関のデータを分析した。その結果、住宅購入額に占める頭金の割合が低いほど債務不履行が増える傾向を実証した。
同様に日銀が4月に発表したリポートでは、住宅ローンに占めるの頭金の割合が、年々低下傾向にあり、「信用コストが増大して住宅ローンの採算が一段と悪化する可能性がある」と警鐘を鳴らした。借り手の若年化と返済長期化が、信用リスクを高めているためだ。
ドイツ証券の山田能伸シニアアナリストは「本来、住宅ローンは信用リスクが低い。だが、低金利競争という“価格破壊”でリスクが蓄積すれば、今後、与信費用が膨張する恐れがある」と指摘し、銀行経営に疑義を投げかけた。
2008年のリーマン・ショックを招いた米国のサブプライムローン問題は、信用度の低い借り手による住宅ローンの貸し倒れが発端だった。
「当時の米国と現在の日本は大きく異なる」(アナリスト)というが、銀行貸し出しに占める住宅ローンの割合は異例の高い水準にあり、銀行経営に及ぼす影響も今まで以上に大きくなっている。金融機関には、リスク管理のさらなる高度化が不可欠となる。(塩原永久)