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【底流】初任給1千万円を積む人材争奪戦 アジア学生狙う日本企業
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東京商工会議所が主催する、アジアからの留学生と中小企業の合同就職説明会。日本企業と現地の橋渡し役が求められている=東京都都港区 日本企業がアジアのエリート採用に乗り出している。優秀な新卒者を獲得し、海外事業の要員を確保することはもちろん、社内を活性化させてグローバル企業に脱皮する狙いがある。ただ、優秀な若手人材は世界各国の企業の垂涎(すいぜん)の的。日本企業が飛躍するためには、きめ細やかな人材育成などの強みをどう生かせるかがポイントだ。
「子供のころから家電はすべて日本製。次第に日本で働きたいと考えるようになった」。中国の大連理工大で経営学と日本語を学ぶ金学江さん(23)は今夏、来日し、東京都内で開かれた日本企業の採用面接に参加した。日本企業でビジネスのノウハウを身につけ、将来はASEAN(東南アジア諸国連合)で仕事ができればと考えている。
香港大学で国際経済を学ぶ朴俊英さん(22)は韓国語、英語、日本語、中国語の4カ国語を話し、将来は世界をまたにかけて仕事をするつもりだ。日本で就職面接を受けたのは「日本はアジアの経済大国。大きな市場を勉強でき将来に役立つ」と考えたからだ。
こうしたグローバル志向のアジアの学生と日本企業のマッチングに力を入れているのがリクルートだ。アジアの学生と日本企業を集めた合同選考会を平成22年度から毎年開催し、参加企業は初回の22社から今年度は100社以上に増えた。
今月中旬からは中国、シンガポール、ベトナムなどでも現地学生の採用選考会を開催。学生は中国、韓国、香港、シンガポールなど6カ国・地域にわたり、北京大、ソウル大、インド工科大など各国トップクラスの大学に通う人もいる。多くの学生が母国語と英語、日本語を操る。
参加企業は日本政策投資銀行、サントリーホールディングス(HD)、三菱東京UFJ銀行、楽天など、日本人学生に人気のある大企業だ。学生は適性検査と面接で選ばれた上で、希望する企業の面接を受ける。
日本企業がアジアの学生を採用するのは、事業の海外展開のほか、「肌の色も国籍も違う人間同士で議論することで、新たなものを生み出す期待がある」(サントリーHD担当者)からだ。
ただ、アジアの高学歴学生は日本人学生に比べて勉強量も多く、将来のビジョンがはっきりしているという。優秀な学生の採用活動は、欧米や現地の企業も参戦する争奪戦となっている。
顕著なのがIT分野だ。インドや中国のIT専攻の学生をめぐり、米フェイスブックなど世界の大手IT企業と日本の大手IT企業が「年収1千万円超を積んで取り合っている状態」(関係者)だ。
「このレベルの学生は完全に売り手市場。特にIT系の学生は日米韓と複数企業の内定をとって、自分の感覚に合うところを選ぶという立場にある」(同)という。
外国人採用の動きは大企業に限った話ではない。東京商工会議所は2年前から、日本企業に就職を希望する外国人留学生と中小企業とを仲介する合同説明会を東京都内で開催。「規模の小さな企業の参加も増えており、グローバル採用に意欲的な企業の裾野が広がっている」という。
「日本経済の閉塞(へいそく)感や危機感が、企業をアジアの新卒採用に走らせている」。こう指摘するのは、リクルートワークス研究所の豊田義博主幹研究員だ。豊田氏は「日本企業の外国人採用はまだ試行錯誤の段階。
現地大学との関係づくりやインターンシップの実施など、欧米のグローバル企業が当たり前にやっていることができていない」と、日本企業の周回遅れを指摘。「採用活動もグローバル標準に合わせなければ、優秀な人材をとりこぼしてしまうだろう」と話す。
大和総研の井出和貴子エコノミストは「高齢化が進み、労働力人口が減少していく日本にとって、若いアジアの人材活用は重要なテーマ。アジアの成長を日本の成長につなげるには、受け入れ方法や姿勢も再考すべき時期」と、人口構造の面からも必要性を指摘する。
ただ、外国人は企業を渡り歩きながらキャリアを積み、より高いポジションを得ようとする傾向が強い。労使が経営理念をいかに共有するかも課題で、日本企業のさらなる努力が求められそうだ。