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【底流】シェール革命を取り込め! 日本企業、米国で買収続々
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シェールガス革命にわく米国で、鉄鋼や化学メーカーが大きな商機を迎えている。衰退産業とみられていた米国の化学メーカーが復権する動きに合わせ、日本のメーカーは現地での生産体制の強化や買収などに乗り出している。重厚長大産業が元気を取り戻せば、日本経済にも好影響を与えそうだ。
シェールガスの採掘・輸送に使う機材や、ガスを液化して運ぶ液化天然ガス(LNG)船の建造、LNGを利用した発電所建設で使用されるボイラーチューブ…。米国では、さまざまな形で鉄鋼需要が生まれている。シェールガスを採掘する際、地中の圧力に耐えられるシームレスパイプ(継ぎ目のない鋼管)は、日本の大手メーカーが強みを持つ。日本の鉄鋼メーカーは昨秋以降、関連需要を取り込もうと動きを活発化させてきた。
新日鉄住金は昨年10月、中国の鋼管メーカー、WSPホールディングスの子会社から、油井管の熱処理・継手加工などの工場(米テキサス州)を34億円で買収した。2015年度中の稼働を目指す。
JFEスチールは兼松と共同で、油井管加工を手掛ける米ベノワマシンの事業と関連保有資産の買収を昨年11月に完了し、次の一手をにらむ。丸一鋼管も昨年10月、米シカゴ工場のラインを1500万ドルかけて改造し、シェールガス向けパイプラインの生産を始めた。現在はAPI(米国石油協会)の規格品認可を申請中で、「来年初頭の認可取得を目指し、その後の拡販を目指す」(同社)状況だ。
シェールガスは、地下2千~3千メートルの頁岩(シェール)層に含まれる天然ガス。これまでは技術的問題から採掘できなかったが、1990年代、米ベンチャー企業が、高水圧で岩盤を割ってガスを回収する技術を確立した。
米国では、この5年間にシェールガス生産が本格化してきた。米エネルギー情報局(EIA)によると、米国では2035年にシェールガス生産量が13兆6千億立方フィートに達し、天然ガス生産量の49%を占めると予測されている。
日本や欧州では一般的に、石油由来のナフサ(粗製ガソリン)から化学製品が作られるが、シリア情勢などもあってナフサ価格は高騰している。
ただ、天然ガスから精製されるエタンの国際価格は下落しており、ナフサとの価格差が広がっている。米国の化学メーカーは、格安なシェールガスを自国で調達できる強みがあり、エチレン工場の建設計画が相次ぐなど、化学メーカーの復権が指摘されている。米国の化学プラント業界が求めているのは、「塩化物や硫化物といった特定の環境に強い鋼管」(新日鉄住金の秦意知郎プラント鋼管室長)だ。
このため、日本の化学メーカーは「コスト面では到底太刀打ちできない」と懸念し、米国での工場建設などを加速させている。クラレはテキサス州に年産4万トン規模のポリビニールアルコール樹脂の工場を200億円かけて建設。信越化学の米国子会社シンテックは、ルイジアナ州で塩ビ樹脂などの生産能力を増強する。約5億ドルの投資を見込み、15年ごろの完成を目指す。
一方、米国のシェールガス革命はエネルギー価格高騰に悩む日本に朗報をもたらした。米政府がシェールガスの対日輸出解禁を決め、日本は17年からLNGの形で初めて米国から輸入する。
今年5月には、中部電力と大阪ガスが参画する米フリーポートのLNG計画が認可された。日本は年440万トンを輸入することになりそうだ。同年9月には住友商事が参画する計画も認可され、LNGを東京ガスなどに販売する予定だ。
また、三井物産と三菱商事が参画するLNG輸入計画は認可申請中だ。
米国の天然ガス価格は、日本のLNG輸入価格の4分の1程度と安い。ガスの液化費用や運搬費用を加えても、米産ガスの輸入が実現すれば、日本のLNG調達価格の大幅な値下がりが期待できそうだ。
経済産業省は「ガスの調達価格が下がれば、電気料金の値上げ幅の抑制が期待できる」としており、シェールガスの恩恵が日本の全産業に及ぶことも期待されている。(兼松康)