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「電力自由化」でも値下げならず? 日本の摩訶不思議な“事情”

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「電力自由化」でも値下げならず? 日本の摩訶不思議な“事情”

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 政府が家庭向け電力の小売り自由化などを視野に入れた「電力システム改革」の準備を進めている。

 国会審議などが順調に進めば2016(平成28)年度にも、消費者が電力会社を自由に選べる時代がやってくる。

 「地域独占」だった電力各社が価格競争に入ることで、利用者の多くは料金の値下げを期待するが、実は日本の電力事情では、値下げは「ほぼ望み薄」なのだという。

 電力もサービス合戦に?!

 「家庭向けの電力自由化が進めば、料金やサービスで好きな携帯電話会社を選べるように、電力も会社を選ぶ時代になるだろう」

 関西電力の関係者は、政府が進める「電力システム改革」後の未来予想図を、こんな風にたとえる。

 これまで、電力産業には「規模の経済」があるとして、多くの国で電力会社に地域独占が認められてきた。だが、地域の需要規模が個々の発電所の発電能力を大きく上回るなど、環境は変化。これを受け、各国では競争的な電力供給参加が認められるようになっている。

 日本でも、電力業界は全国10地域による地域独占の電力供給体制だった。だが、政府が進める「電力システム改革」では、市場の競争原理を導入することになる。利用者には料金値下げや“サービス合戦”など、供給側が競争にさらされることによるメリットが期待される。

 例えば、太陽光発電など再生可能エネルギーに力を入れるソフトバンクグループのように、電力を携帯電話などとセットでサービスを提供。大阪ガスもガス供給と組み合わせるなど、電力事業に新規参入した「新電力」各社によるユニークな各種サービスの展開が想定される。加えて、関西地域でも関西電力だけでなく中部電力など、他地域の電力会社の参入も考えられる。

 「新電力」シェアは拡大

 日本の電力自由化をめぐっては2000(平成12)年から一足先に、工場やオフィスビルなど、電力の大口需要家を対象に始まった。

 自ら発電したり、自家発電した企業から買い取った電力を販売する「新電力」と呼ばれる事業者は、平成23年3月の東日本大震災後に急増。電力会社が相次いで値上げに踏み切った今年は、大口顧客の新電力への切り替えが起きた。今年度、関西電力から「離脱」した大口顧客は11月初めまでに過去最高(年間1623件)を大きく上回る2100件を超え、増え続けている。

 今年上期(4~9月)は、国内の企業向けの販売電力量が前年同期比0・9%減少する中、新電力による販売量は17%増という大幅な増加を記録。市場シェアは3・5%から4・1%に急上昇した。

 政府の「電力システム改革」の工程表によれば、家庭向け電力の小売自由化が実施されるのは2016(平成28)年から。ねらいはずばり、電力の値下げだ。市場の競争原理導入による業界改革の進展が、電力の値下げに結びつくことを期待している。

 自由化≠値下げならず?!

 だが、自由化がさらなる新電力のシェア拡大や値下げに結びつくかについては、有識者からは疑問の声も上がっている。

 海外事例も含め電力自由化を約20年研究する電力中央研究所社会経済研究所(東京)の丸山真弘・上席研究員はずばり、「自由化すれば必ず電気料金が下がるわけではない」と指摘する。

 日本国内の電力供給体制の現状は、原子力発電所が止まった状態だ。丸山氏は「節電をお願いするほどのガリガリの体。電力を値下げするには、太った体(発電所などの電源)をシェイプアップ(効率化)して発電コストを削るのが基本だ」と表現する。供給体制に余裕がなければ、値下げには結びつかないというのだ。

 さらに、火力発電の燃料費や再生可能エネルギーの導入コストなどを考えれば、「現状では自由化されても電力料金が下がる要素が見当たりにくい。逆に、電力料金に反映される可能性もある」とすら予測する。実際、電力自由化したドイツでは、「市場原理の導入による自然な帰結」として、2000年から2010年の間に家庭用電気料金はキロワット時当たり11・01セント上昇。そして、発電会社の利益は増えているというのだ。

 電力会社いらない家庭も?

 では、電力自由化の時代が到来したとき、どうすることで一番「お得」なサービスを受けられるのだろうか。

 政府が描く電力自由化による電力料金値下げのシナリオでは、「新電力」の参入促進が不可欠だ。経済産業省によると、新規参入した特定規模電気事業者(新電力)は114社あるが、今年9月までに実際に電力を販売した実績があるのはわずか39社。多くの新電力がまだ電力事業の準備段階であり、各地域で市場競争によって促される電気料金の値下げにつながるかどうかは、まだ未知数だ。

 一方、住宅販売では太陽光発電や蓄電池を備えた「スマートハウス」の普及が進む。こうした家庭では自家発電した電力で生活でき、電力会社からの購入が不要という家庭や、余剰分を売電する家庭も出てくることになる。自由化でこうした選択肢は増えることになるが、その展開や見通しは見えていない。

 少子高齢化が進み、世帯数は減る一方となるこれからの日本社会。今後、電力各社が生き残りをかけた熾烈(しれつ)な顧客争奪戦が進むのは間違いなさそうだ。(西川博明)

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