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FNN「原発専門記者」育成へ NHKに“敗れた”苦い経験を糧に
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東日本大震災と東京電力福島第1原発事故の経験を生かし、民放テレビでも原発の「専門記者」を育成する動きが出てきた。フジテレビ系列28局でつくるFNN(フジニュースネットワーク)は1月、福島県を中心に原発問題を取材する「FNN原発問題専門取材団」を立ち上げ、4月から本格始動させる。民放初の試みで、実現を後押ししたのは3年前の苦い教訓だった。(三品貴志)
「今、福島で起きていることは福島だけで抱えるにはあまりにも大きな課題。廃炉までは30年とも40年ともいわれている。長期にわたる取材を、FNNが一体となって担っていきたい」
1月24日、福島市内で開かれた取材団の初会合で、FNN事務局長を務めるフジテレビの箕輪幸人(みのわゆきと)常務は、取材団発足の理由をそう強調した。
取材団には、系列全局から記者とカメラマン70人以上が登録。各局の人員などを勘案しつつ、4月以降、メンバーが数人ずつ約1週間ごとに交代で福島入りし、福島テレビと協力して原発問題を取材する。今月3日には、本格運用を前に一部メンバーが福島第1原発内部を撮影した。
FNN系列各局は震災直後から、福島をはじめ被災地に「応援」として記者らを派遣してきた。ただ、フジテレビの報道幹部は「原発事故報道では、専門記者を抱えるNHKにリードされた感が否めなかった。『民放だから専門記者がいない』と思われるのは、悔しかった」と打ち明ける。
系列局間の調整業務を担当するフジテレビ報道センターの谷川秀夫FNN推進部長も、当時の報道について「専門家の解説に頼りすぎたかもしれない。もっと蓄積があれば、専門家への質問や図などを工夫し、さらに分かりやすさや生活に密着した視点を示せたはずだ」と振り返る。
昨年、フジの箕輪常務が系列各局に取材団結成を提案したところ、全28局が参加を表明。谷川さんは「あくまで志願制だったので、半分くらいの局が参加してくれれば御の字と思っていた。各局の意欲の高さを痛感した」と驚いている。
取材団を受け入れる福島テレビの鈴木延弘報道部長は「現場を歩くことが説得力ある報道の第一歩で、震災が忘れられつつあるなかで有意義な試み。原発立地県をはじめ、系列局には経験を地元に持ち帰り、番組づくりに生かしてもらえるはずだ」と語り、系列局全体の底上げを期待する。
谷川さんも「NHKの科学記者にも文系大学出身者はいる。理系の人材でなくても、仕組みを整備し本人の意欲があれば、専門性は身につけられる。各局に専門記者を育成し、後の世代にノウハウを継承していくことも重要だ」と力を込めている。
日本テレビ系列でつくるNNN(ニッポンニュースネットワーク)も、系列局を横断した取材チーム結成を検討している。将来を見据えた人材育成が広がりつつあるようだ。
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FNN系列のニュース番組「FNNスピーク」(月~金午前11時半、土曜同11時45分)では震災から3年を迎える今年、系列局が全国各地の防災の取り組みを紹介する企画「防災FNN いのちを守る」を週1回ほどのペースで放送している。
1回5分前後で、1月13日の放送では、木造住宅が密集する東京都墨田区でタオルを活用した安否確認などの地域ボランティア活動を紹介。同27日には、愛知県内で広がる「防災井戸」の取り組みを伝え、災害時の水確保の重要性を訴えた。
フジテレビの担当者は「震災から時間がたち、ともすれば薄くなりつつある防災意識を見直す時期に来ている。各地域での生活の工夫を伝えることで、視聴者には災害への備えを再確認してほしい」と話している。