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本質にこだわり全て自社開発 大手に挑戦する家電ベンチャー「バルミューダ」

ニュースカテゴリ:企業の電機

本質にこだわり全て自社開発 大手に挑戦する家電ベンチャー「バルミューダ」

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バルミューダの寺尾玄社長。扇風機や空気清浄機など製品の全ては「本質」にこだわって開発した=東京都武蔵野市  「やりたいことがなくなったら、何のために続けているのか。結局は価格競争に巻き込まれてしまうだけだ」

 かつての勢いを失った日本の大手家電メーカーについて聞くと、「われわれが何か言うレベルにはないが」と前置きしながらも、手厳しい私見を示した。日本では数少ない家電ベンチャー、バルミューダの寺尾玄社長(41)。以前は倉庫だった東京都武蔵野市のオフィスで、素朴な無垢(むく)材の大きなテーブルをはさんで記者と相対した寺尾氏は、ラフな白シャツにジーパン姿だった。

 2000種の案から厳選

 4年前に発売した2重構造の羽根を持つ斬新な扇風機「グリーンファン」が、3万円以上という高額にもかかわらず大ヒット。以降、バルミューダが相次いで投入した空気清浄機、加湿器、暖房器具は機能性とデザイン性の高さから、いずれも人気製品となっている。

 「いい位置につけていると思う。ブランド認知度が上がり、何より開発力が充実してきた」

 バルミューダが大手メーカーに負けないブランド力を築きつつあるのは、製品開発への徹底したこだわりだ。

 グリーンファンの開発では風の“質”を徹底的に追求。速度の異なる2種類の風をぶつけるという技術で、当たり続けても心地よい自然の風を再現した。寺尾氏は「従来の扇風機が風を提供するだけだったのに対し、グリーンファンは人が五感で受け取れる良さを提供する」と、その違いを強調する。

 つぼ型の加湿器「レイン」は、取り外して水を入れる煩わしさがあったタンクを無くし、やかんなどで水を簡単に注げる新たな構造を採用。細菌を分解するなどして、送り出す空気も清潔に保つ。さらに操作ボタンを廃し、誰もが直感的に使えるように工夫。スマートフォンからコントロールできる機能も備え、帰宅前に部屋の湿度を確認したり、スイッチを入れることもできる。

 製品のデザインは約2000種類の案の中から選び抜く。「他社から見たらばかだと思われる」と笑うが、全ては「本質を追い求める」ためと手は抜かない。製品の企画だけをして中国メーカーなどに開発を委託し、販売も外部を頼るメーカーが多い中、ソフトウエアを含めほぼ全てを自社開発する。カタログなど販促ツールまで自社で作る。自社サイトでの販売数が多いのも特徴だ。

 株式公開も視野に

 ロックミュージシャンだったという寺尾氏は「製品は楽曲と同じ」と話す。細部までこだわり抜いた製品は工場で作られた物だが、そのデザインと機能、開発に込められた思いといったトータルな世界観は“作品”と呼ぶにふさわしい。

 寺尾氏とバルミューダの製品群を知ると、大手家電メーカーの作る製品が、そのメーカーが本当に「やりたくてやっていること」に見えないという寺尾氏の見方も理解できる。

 寺尾氏はまた、「創業者がいなくなり、時間がたってしまうこと」を、そのメーカーの製品の魅力が失われていくポイントだともみている。「米アップルも例外ではないのではないか」

 ただ、バルミューダも「来年、再来年に向け、さらに魅力的な製品ができる」と製品群の枠を拡大する予定。季節家電以外の生活家電の開発も進めている。4年前に5人だった社員も現在は約50人。さらに「大幅に増やしていく」。海外進出も現在の韓国、ドイツ、中国以外にも広げる計画だ。株式公開を含め、まとまった資金の調達も視野に入れる。

 事業を拡大すればするほど、仕上がった製品と、寺尾氏や開発陣との距離感が広がっていくことはないのか。ただ、その世界観を維持したまま成長できれば、世界で戦える強力な家電メーカーに進化する道が開けるに違いない。(池誠二郎)

【会社概要】バルミューダ

 元ロックミュージシャンという異色の経歴を持つ寺尾玄社長が、独学で設計、製造技術を習得し、2003年に設立。特許技術で自然の風を再現した「GreenFan(グリーンファン)」を10年に発表。ドイツの国際的なデザイン賞、iFゴールドアワードとレッドドットデザインアワードを空気清浄機「AirEngine(エアエンジン)」、加湿器「Rain(レイン)」がそれぞれ受賞した。

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