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船井電機、立ちはだかる“カリスマの壁” 電撃的な社長交代劇…憶測呼ぶ
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代表権を回復した船井哲良会長(中央)と社長に復帰した林朝則氏(左)。上村義一氏(右)は社長を辞任した 家電製品の低価格路線で「世界のフナイ」と呼ばれた船井電機で経営陣の先祖返りが起きた。2日、上村義一社長(56)が「一身上の都合」を理由に辞任し、前社長の林朝則副会長氏(67)が後任社長に復帰。創業者の船井哲良会長(87)が代表権を回復したのだ。上村氏は経営の若返りのため1月に社長に抜擢されたばかり。記者会見が開かれなかったこともあって電撃的な社長交代劇は憶測を呼び、経営方針をめぐる対立が原因とささやかれている。(伊豆丸亮)
「本当に突然なんです」
2日、上村社長の辞任が船井電機の公式ホームページにアップされると、大阪府大東市にある本社では報道関係者の事実確認の電話が鳴り止まず、広報担当者が対応に追われた。
「一身上の都合」以外の辞任の理由や経営について具体的な説明もなく、担当者は「自主的な辞任で、経営上の問題ではない」「引責辞任ではない」と繰り返した。
このため、上村氏の自宅にも報道関係者が詰めかけた。カリスマ創業者の船井会長が上村氏の経営方針に批判的で、事実上の解任だったとの見方をぶつけると上村氏は「自ら辞めたのは事実で、健康上の問題はない」と煮え切らない回答。辞任の理由は明確にせず、経営方針の対立という見方には「“新しい経営陣”に聞いてください」と述べるにとどめた。
上村氏の退任後の新しい体制では、林社長と船井会長に加えて、三洋電機出身の前田哲宏代表取締役執行役員(60)が代表権を持つ。上村氏は代表権と業務執行権がない取締役になる。
船井電機の主力事業は液晶テレビで、売上高は全体の6割以上を占める。とくに普及期には、大量生産による低価格品が米国で人気を呼び、業績を大きく伸ばした。ただ、最近では、買い替え需要の低迷や価格競争力のある韓国・サムスン電子やLG電子の躍進などで業績不振に陥り、平成26年3月期連結決算まで4期連続の最終赤字を計上している。
経営の立て直しのため脱テレビ依存に舵を切った船井電機は25年1月、別分野のブランド力の向上による収益拡大を狙って蘭フィリップスのオーディオ機器事業を買い取ることで合意した。
ところが同10月、フィリップスが「船井側に契約違反があった」と売却を中止、賠償を求める仲裁を国際商業会議所(ICC、パリ)に申し立てる事態となった。
ブランド力の向上による収益改善策が頓挫し、逆にトラブルに巻き込まれるなか、船井電機が1月に経営の若返りと業績回復の期待を込め、社長に抜擢したのが上村氏だった。
だが、経営再建を託された上村氏に立ちはだかったのは、創業者の船井会長その人だった。「船井電機では創業者に話を通さないと何も決まらない」(業界関係者)といい、上村氏にとっても、低価格路線のビジネスモデルを打ち立てて一代で「世界のフナイ」に育て上げたカリスマの意向が壁になったとみられる。
低価格路線で堅調な北米のテレビ事業に注力したい上村氏に対し平成25年に米プリンターメーカー大手、レックスマーク・インターナショナルから約95億円で買収した家庭用インクジェットプリンター事業の強化にこだわる船井会長。その結果、上村氏の意図が十分に経営に反映できない状態が続いたといわれる。
今年5月にはパイオニアのオーディオ部門の売却先として船井電機が浮上し、業績回復のてこ入れとなるブランドを手に入れる好機が再来した。上村氏は買収に積極的だったが、そのときもカリスマの壁は厚く、最終的に他社にさらわれてしまった。
そして今月2日、船井電機はフィリップスに、3億1230万ユーロ(約431億円)の損害賠償を求める書面をICC国際仲裁裁判所に提出したと発表。その数時間後、突如、社長交代がホームページで公表された。「やりたいことができずに上村氏はおもしろくなかった」(関係者)といわれる。
8年前、産経新聞が当時79歳の船井会長をインタビューしたことがある。後継者の腹案を聞いたところ、「私は高齢なので、万が一の場合は副社長になるだろう。長期的にみれば50歳代くらいの若い社長を育て上げるのが理想だ」と回答したのが印象に残っている。
上村氏は理想の後継者にはならなかった。ある金融関係者が漏らした言葉が重く響く。
「確かに林氏は船井会長の意をくめる人物だが、『創業者=企業』では問題がある」