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日本郵政、リスク覚悟の成長戦略 西室社長は“二の矢”に含み
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トール・ホールディングスの買収を発表する日本郵政の西室泰三社長=東京都千代田区 株式上場まで半年余りに迫った日本郵政グループが、本業のてこ入れに向け本格的なM&A(企業の合併・買収)に乗り出した。郵政グループとして過去最大規模の企業買収によって、日本郵便は「国際物流のグローバル・リーディングプレーヤー」(西室泰三・日本郵政社長)を目指すが、競争の激しい世界市場で大手の一角に食い込むにはなお多くの時間がかかりそうだ。
郵便市場の減少傾向が続くなかで、成長分野の物流事業で世界市場を目指すのは当然ともいえるが、これまでの海外企業との分業的提携事業と異なり、初めて自ら世界市場で競争にさらされることを意味する。
豪トール・ホールディングスは世界に1200カ所超の拠点を持っており、日本郵便は自ら国際物流事業を展開するために必要な物流網を手に入れることになる。西室社長は「今後の成長が著しいアジア太平洋地域に強い」とトール買収のメリットを強調する。
しかし、世界の物流業界ではDHLなどを傘下に持つドイツポスト、米ユナイテッド・パーセル・サービス(UPS)、米フェデックスといった3強が4位以下で構成する2番手グループを大きく引き離しており、アジアでも存在感は大きい。
市場調査会社によると、トールを加えた日本郵政グループは2番手グループに食い込むが、シェアはわずか2%強とみられる。3強でさえシェア5%足らずという熾烈(しれつ)な競争が続く国際物流市場は、今後も再編による淘汰の波にさらされる可能性が強い。
日本郵政はいうまでもなく本格的な国際物流事業の経験はない。西室社長は「過去の(提携事業の)経験があるから買収を決断できた」と説明するが、図らずも日本郵便の国際展開のトール買収は国際物流業界再編の口火を切ることになるかもしれない。
「(国際市場進出への)時間を買った」と説明する西室社長だが、これで十分だとは考えていないようだ。さらなる投資については「何も決めていないが、必要ならトールと一緒に検討していく」と“二の矢”に含みを持たせる。
豪州当局とトールの株主総会の承認を経て買収が完了すれば、日本郵便は国際物流事業でのトールとの相乗効果やノウハウの吸収が急務となる。
日本郵便幹部は「海外勢との食うか食われるかの競争に当社が勝てるのか、正直、不安だ」と危機感を隠さない。
日本郵便のリスク覚悟の成長戦略は上場した日本郵政の株価を大きく左右することになりそうだ。(芳賀由明)