2030(平成42)年時点の電源構成を定める議論が大詰めを迎えている。火力と原子力に加え、再生可能エネルギーを組み合わせて、最適な構成(ベストミックス)を目指す。電力は暮らしや産業を支える重要な基盤である。その構成の決定には政治的な主張や思惑を排し、経済性や環境性、エネルギー安全保障などを勘案しながら、バランスを取る必要がある。それが将来世代に対する責任を果たすことにもつながる。
経済産業省の有識者会議が進めている電源構成をめぐる議論は、電源に占める原発比率が焦点だ。東日本大震災に伴う福島第1原発事故で、国内すべての原発が稼働を停止する中で、事故前に約3割あった原発比率をどこまで引き下げるかに注目が集まる。
だが、現在の電源の姿をみると、原発停止で火力発電に電源の9割近くを依存する歪(ゆが)んだ構成になっている。こうした火力集中は、1973年の第1次石油危機時を上回る。原油輸入の途絶懸念からパニックに陥ったあの危機を教訓にして、日本は脱原油・脱中東を進めたものの、原発事故で元に戻った格好だ。
経産省は、昼夜問わずに一定の発電を継続する「ベースロード電源」の比率を6割程度にしたい考えだ。このベースロードには原発と水力、石炭のほか、再生エネの地熱も含まれる。同じ再生エネでも24時間稼働ができない太陽光や風力は対象とならない。日本は原発事故前にベースロード電源が全体の6割だったが、原発の停止で現在は4割に低下している。
常時発電する電源は相対的にコストが安く、安定供給性にも優れている。これをベースと位置づけ、夏場や昼間など電力需要が増えた際には、「ピーク電源」である石油火力や揚水で発電量を増やせば、発電コストの引き下げや安定供給につながる。
現在の火力集中によって全国平均の電気代は、震災前に比べて企業用で3割、家庭用も2割値上がりしている。これに加えて北海道電力に続き、関西電力も追加値上げを申請中だ。原子力というベース電源を欠き、発電コストの高い石油火力などをフル稼働させているためだ。
さらに再生エネを固定価格で長期に買い取る制度の拡大で、家庭や企業が支払う今年度の賦課金は、昨年度に比べて2倍に上がる。電気代の高騰は中小企業などの経営にも深刻な打撃を与えている。
海外主要国でもベースロード電源は全体の6~9割を占める。このため、経産省や自民党は日本もこの国際水準並みを確保すべきだとの立場だ。
同省試算では、30年時点の総発電量を省エネ効果なども見込んで全体で1兆キロワット時と仮定した場合、水力と地熱で1割を確保できるという。残りを石炭と原発で分け合えば、ベースロードで電源全体の6割を賄える。
電源構成は、年末にパリで開かれる第21回国連気候変動枠組み条約(COP21)に向け、日本としての温室効果ガスの排出抑制目標を決める前提にもなる。日本の13年度の温室ガス排出量は、前年度比1・6%増の13億9500万トンと過去最大に達した。これも発電時に温室ガスを出さない原発の停止が響いている。
欧州連合(EU)は日本がどこまで高い削減目標を打ち出すのかを注視している。そうした中では、液化天然ガス(LNG)より二酸化炭素の排出量が2倍多い石炭火力の大幅な増設は見込みにくい。
仮に30年時点で石炭比率が現在と同じ約3割だとした場合、原発も2割程度は最低でも必要となる。これを基準に電源構成の比率を判断することが現実的だろう。
問題は民主党政権時代に改正された原子炉等規制法だ。同法は原発の運転期間を原則40年とし、特別な審査に合格すれば、最長60年まで運転延長が可能とした。だが、「原則40年」を厳格に適用すると、30年時点で原発比率は15%程度に下がる。このため、2割超の原発比率の維持には運転延長が不可欠となる。
すでに関電は高浜原発など3基の運転延長を目指しているが、実際の延長期間は原子力規制委員会が決める。また、延長申請も稼働期間が40年を迎える1年3カ月前からしか認めないという。これでは審査中に時間切れで、廃炉となる恐れもある。基準運用の弾力化が必要だ。
今回は30年時点の電源構成を決めるが、安定的な電力供給はその後も欠かせない。30年時点で20%の原発比率を維持しても、建て替えや新増設がなければ、将来的に「原発ゼロ」になる。日本のエネルギーの将来像を見据えた結論を導き出してほしい。