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下戸じゃなかった「孤独のグルメ」の松重豊…今やCMの売れっ子、ヱビスビールCMで新境地開拓
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ヱビスがこだわっている原料の麦芽・ホップ、製法などに焦点を当てながらヱビスにしか作れないコクの理由を、松重さんの表情と声でひもといていった。 テレビ東京の深夜ドラマ「孤独のグルメ」。知る人ぞ知る庶民的な店を舞台に「これでもか」といった形で大量の料理が提供され、主人公の井之頭五郎が平らげていくといったシンプルな構成だが、すでにシーズン4までオンエアされた大人気番組だ。別称「深夜の夜食テロ」。ちょうど小腹が空く時間帯に放映されることからそう名付けられ、中国や韓国、台湾などアジア諸国でも人気が高い。その井之頭を演じる俳優、松重豊さん(52)が3月下旬からオンエアされているヱビスビールの新CMに登場している。
■大河ドラマ「毛利元就」でブレイク
「五郎ちゃん」の設定は下戸。このため松重さんには、「お酒を飲めない」といったイメージを持つ人も少なくないというが、実はヱビスビールをはじめアルコール類が大好き。ただ、若い頃は「何か特別なご褒美といった思い入れがある」といったように、ビールを好きなだけ飲むといった環境にはなかった。
松重さんは昭和61年に明治大学を卒業するのと同時に、蜷川幸雄さんが主宰する「ニナガワ・スタジオ」に所属。身長190センチ(現在は188センチ)という体格を武器に大役を演じたこともあるが、仕事が頻繁に舞い込むわけではない。バイト生活を強いられるなど収入は常に不安定だった。
こうした日々から抜け出したのは30歳の頃。ある舞台での役柄が注目を集めてコンスタントに舞台の仕事が入るようになり、ようやく芝居だけで飯が食えるようになってきた。そして内舘牧子さんが脚本を手掛けた平成9年の大河ドラマ「毛利元就」で3男の吉川元春に大抜擢(ばってき)。これを機に舞台だけではなくテレビや映画へと活躍の場を広げていった。
映画では毎日映画コンクールで助演男優賞を受賞したり、朝の連続テレビ小説「ちりとてちん」でお父さん役を演じるなど着実に実績を積み重ねてきたが、ブレークのきっかけとなったのは、何と言っても孤独のグルメ。また、昨年に放映された木村拓哉さん主演によるフジテレビの人気ドラマ「HERO」で、上司となる部長検事を演じたことにより、茶の間での認知度が一気に高まった。
こうした動きに呼応する形で、今やテレビCM界の売れっ子に。直近のCM作品だけでも味の素の「きょうの大皿シリーズ」、Sansanの「クラウド名刺交換サービス」、高橋書店の手帳、KDDIの「auスマートバリュー」、小林製薬の「アンメルツゴールドEX」などに出演し、さまざまなキャラクターを演じ分けてきた。
プレミアムビールの代表格であるヱビスは100年以上続いているブランド。しかし、本格的なテレビCMは21年前からと、意外に歴史は浅い。最初に起用したタレントは「マッサン」の父親を好演した前田吟さん。それ以降、クオリティの高さをアピールしたCMを作り続けている。
■重視したのが〝声〟
ヱビスのCMにはすでに、滝川クリステルさんが登場している。滝川さんを起用した理由は、情緒的な側面から上質さを訴求するため。図らずも東京五輪の招致で行った「おもてなし」プレゼンテーションで有名になった。
これに対し、新CMを作成するに当たっては「麦芽100%を使用」「通常のビールに比べて1.5倍の熟成期間を要する」といった商品価値を強調していくことを決めた。3月までサッポロビールのブランド戦略部長を務めていた野瀬裕之・サッポロホールディングス取締役は、「ポッと出のプレミアムビールとは圧倒的にクオリティが異なる点を強調したかった」と振り返る。
そこで重視したのが声。「『この人がメッセージを伝えるのであれば品質は確かだ』といったような、信頼感に満ちた役者さんを選びたかった」といい、松重さんが候補の1人に。松重さんはNHKのBSプレミアムで放映されている「英雄たちの選択」のナレーターを務めており、「その響きが最高によい」と野瀬取締役は常々感じていたからだ。
■新境地開拓
松重さんは最近になってCM出演が相次いでいるというイメージが強いが、実は声だけの出演の経歴は長く、数々の一流ブランドCMに携わってきた。NHKや民放を問わず、テレビ番組のナレーターも数多く務める。5月に上映されるアニメ映画「百日紅(さるすべり)」では葛飾北斎役を担当するなど、声を武器にした活躍も目覚ましい。最終的には声が今回のCMの決め手となった。
松重さんが心がけたのは「孤独のグルメと同様、ことさら演技ではなく、おいしいという“実況”を行うこと」。CMではヱビスがこだわっている原料の麦芽・ホップ、製法などに焦点を当てながらヱビスにしか作れないコクの理由を、松重さんの表情と声でひもといていく。制作現場では「どのシーンを切り取っても納得性が高かった」(野瀬取締役)という。
松重さんは「多少の違和感を覚えるかもしれないが、その部分を含めて楽しんでいただければ」と語る。それだけ「下戸の井之頭五郎」というイメージが強いわけで、ヱビスビールの新CMで新境地を開拓しようとしている。