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ネットで日本の技術が使い放題!? 今こそ「知財の選別」必要

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ネットで日本の技術が使い放題!? 今こそ「知財の選別」必要

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【特許ウオーズ 中小企業】<下>

 神戸港内の人工島・ポートアイランド。最先端の医療関連産業を集めた「神戸医療産業都市」に本社を置く社員わずか14人のバイオ機器メーカー、ジェイテック(神戸市)が、iPS細胞(人工多能性幹細胞)などを自動的に培養する小型装置を1月に発売した。

 京都大の山中伸弥教授がノーベル医学・生理学賞を受賞したことで一躍脚光を浴びるiPS細胞。自動培養装置はこれまで高価だったが、ジェイテックでは500万~600万円と従来比10分の1という低価格を実現し、問い合わせが殺到している。

 IT(情報技術)やバイオなど先端技術は世界的に注目度が高く、その事業展開には特許の取得が欠かせない。ジェイテックも同装置の特許を出願し、商品名「セルペット」は商標登録をした。しかし、津村尚史社長は「(出願は)事業に関連するものに限定している」と明かす。知的財産権の“選別”だが、出願費用などを抑えたいというのが本音だ。

 売れる製品に集中

 特許などの出願には、出願料や弁理士費用など基本的に1件当たり40万円程度が必要とされる。中小企業は年間で20件も出願すれば多い方だが、それだと800万円はかかる計算だ。大企業に至っては年間数百件が一般的で、数千万円~数億円規模になる。

 海外出願となれば、少なくとも1件100万円以上に達することから、津村社長は「むやみに出願するのではなく、選択の必要がある」という。

 ドライバーなどの工具を手がけるエンジニア(大阪市)の高崎充弘社長も「売れると感じた製品しか特許は申請しない」と話す。

 さびたねじなどを外す工具「ネジザウルス」が同社の主力商品で、特許の取得件数は約15件にのぼり、まさに“一点集中型”である。

 中小企業の間では、特許をあえて出願しないという動きもある。特許情報は公開されることから中国企業などに情報を悪用され、模倣品を作らせてしまいかねないためだ。

 しかし、ある関係者は「中小が技術を隠してしまうのは資金や人材に乏しいため。これは国の支援が十分でないことの裏返し」と指摘。ただ、皮肉にも中小企業が進める「知財の選別」こそ、今の日本に必要ともいわれている。

 総合支援窓口を開設

 2002年2月、小泉純一郎首相(当時)が「知的財産立国宣言」を打ち出して10年あまり。特許の国別出願件数で、日本は3位(11年)と上位だが、大阪大の玉井誠一郎客員教授は「出願数は多くても、それらの技術を活用した製品を生み出し、きちんと収益を上げることができていない」と指摘する。

 日本の特許庁が研究開発動向の把握などを目的にインターネット上に開設している「電子図書館」には特許情報が掲載され、世界各国から閲覧できる。一方、特許は各国で取得する必要があるが、日本の中小企業は海外での特許出願が多くはない。このため、特に中国企業にとって、日本企業の技術が「海外で使い放題になる」との声もある。

 「技術は特許出願して必ずビジネスにつなげるものと、秘密にするものと選別しないといけない」。玉井客員教授はこう強調する。

 2年前の11年春。全国の発明協会などに「知財総合支援窓口」が開設された。

 「これまでどれだけ多くの特許出願を審査するかにばかり目がむいていた。その特許が企業の事業展開に有益なのかという視点に欠けていた」(特許庁企画調査課)との反省から設けられた仕組みだ。海外での特許出願や特許係争への対応など、中小企業の知財経営強化のための支援を“ワンストップ”で行っている。

 ジェイテックの津村社長は「資金的な制約はあるものの、当社の知財戦略は成功していると思う」と胸を張る。しかし、こう言い切れる中小企業はまだまだ少なく、知財マネジメントの充実は海外企業と互角に戦う上で今、最大の経営課題となっている。

 この企画は、中村智隆が担当しました。

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