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与党勝利宣言も難しいかじ取り カンボジア総選挙、都市で野党大躍進

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与党勝利宣言も難しいかじ取り カンボジア総選挙、都市で野党大躍進

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 7月28日に投開票されたカンボジア総選挙(定数123、5年ごとに比例代表制で改選)は、与野党双方が「勝利宣言」をして迷走が続いている。8月12日までずれ込んだカンボジア中央選挙管理委員会による暫定結果の発表によると、与党・カンボジア人民党が辛勝したが、野党・カンボジア救国党は受け入れていない。

 当初懸念された大規模デモや衝突は発生しておらず平穏だが、フン・セン首相の与党は厳しい世論を相手に、難しいかじ取りを迫られている。

 ほぼ互角の数

 カンボジア中央選挙管理委員会によると、得票数は与党・人民党が約324万票、野党・救国党が約295万票。確定得票と獲得議席数は9月上旬にも発表される見込みだ。与党は全国のほとんどの州で野党を上回ったが、首都プノンペン、コンポンチャム州、プレイベン州、カンダール州といった人口の多い州では、野党が与党を上回り、有権者の不満が都市部ほど強いことを示した。

 カンボジアの総選挙をめぐっては投開票直後、与党・人民党が「与党68議席、野党55議席」との独自集計結果をもとに勝利宣言した。改選前の議席は、与党90議席、野党29議席(旧サム・レンシー党と旧人権党の合計)、その他4議席で、与党が大幅に議席数を減らすことは確実だ。一方の野党は「63議席以上を獲得している」として、与党発表を認めていない。

 投開票日の1カ月前から始まった選挙運動は、7月19日に野党のサム・レンシー党首がシハモニ国王の恩赦を受けて事実上の亡命先であるフランスからカンボジアに帰国してから、一気に盛り上がった。

 サム・レンシー氏は2009年、現政権のベトナムに対する姿勢を非難し、ベトナムとの国境を定める杭(くい)を抜いたため、器物損壊などの罪に問われた。10年、同氏は国会議員の不逮捕特権を剥奪されたためフランスに渡り、カンボジアではこの件について本人不在のまま懲役刑が言い渡された。以後、身柄拘束を避けるため、カンボジア国外で政治活動を続けていた同氏だが、国王の恩赦を受けて帰国。党首を迎えようと、空港周辺の道路は支持者で埋め尽くされた。

 巧みな現首相

 野党優勢の情報は投票日当日、即日開票された会場からも流れた。だが、野党は勝利宣言までしたものの、フン・セン首相の硬軟使い分けての巧みな自己演出と、野党党首の渡米で勢いがそがれた。

 各地で野党大躍進が伝えられた投開票日の夜から、フン・セン首相は3日間、公の場に姿を見せなかった。国外亡命説も出たほどの沈黙を貫き、ようやく国民の前に姿を見せた7月31日夕方には、野党に対し「与野党協議で解決を」と柔軟姿勢で呼びかけた。そして強硬だった野党が話し合いに応じる意思を示したとたん、今度は首都郊外に装甲車などを配備し、大規模デモを示唆する野党に対し、力には力でこたえる強硬姿勢を見せた。

 与野党の攻防が続く8月上旬、今度は野党のサム・レンシー党首が「家族の結婚式のため」として約1週間渡米。野党支持者の中には「なぜ、この時期に私用で渡米するのか分からない」と力を落とす人もおり、熱が冷めかけたようにも見える。

 ただ、与党の独自集計でさえ政権を脅かしかねない得票数が弾き出された「野党の大躍進」は、与党内部に強い衝撃を与えたようだ。

 安泰といわれたフン・セン政権の基盤が揺らぎ、与党内部にも「政治改革」の必要性を訴える声が強まる可能性もある。与党の報道官は独自集計を受けて「われわれにとって、目の覚めるような結果だ」と語った。

 野党に託すには早い、だが与党とて最良の選択肢ではない、という国民の意思を、百戦錬磨のフン・セン首相がどのように受け止めるのか。カンボジアは政治の季節がまだ続いている。(カンボジア邦字月刊誌「プノン」編集長 木村文)

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