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【東電交付金】賠償支払いまで最長497日…被災者、負担大きく不満も

ニュースカテゴリ:社会の事件・不祥事

【東電交付金】賠償支払いまで最長497日…被災者、負担大きく不満も

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 国から財政支援を受けていることなどから会計検査院の検査対象となった東京電力。国会の要請を受けた検査院は原子力関係検査室を新設し、普段の2倍以上の態勢で初の検査に臨んだ。賠償金の回収見通しをはじめ、被災者への賠償やコスト削減の進捗(しんちょく)具合などを多角的に調べ、賠償支払いの遅れや不要資産が見つかったほか、福島第1原発の廃炉費用など、現時点で不確実な要素も確認された。

 会計検査院が被災者への賠償状況を調査したところ、請求から支払いまでに要した日数が最長で497日、1年以上かかったケースも196件に上ることが分かった。賠償金が必ずしも被災者へスムーズに渡っていない実態が改めて浮かんだ。

 東電による賠償は(1)避難指示などで転居を余儀なくされた個人(2)自主的避難の個人(3)法人(4)農協、漁協などの団体-の4つに区分して行われている。検査院は平成25年3月までに支払われた約2兆427億円のうち、団体以外に対する支払い状況を調べた。

 個人に対する賠償は、請求から支払いまでの平均日数は35・1日だったが、1年以上の長期間に及んだケースが計120件(計3億4225万円)で、最長は497日だった。法人に対する賠償でも、支払いまで1年以上を要したものが76件(計19億3894万円)あった。

 検査院は「支払いを受けるまで請求者の負担が大きい」と指摘。実際、福島県の事業者からは賠償の遅れについて不満が漏れる。

 二本松市の岳温泉観光協会会長で、市内で温泉宿を経営する鈴木安一さん(66)は「もう少し早く賠償の先行きが見えていれば」と悔やむ。東日本大震災直後、同じ地区の老舗旅館が破産。関係が深かった福島市の温泉宿も5月、9月と廃業に追い込まれた。「みな震災がなくても資金繰りに余裕はなかった。賠償の確約があるだけで宿を畳むことにはならなかったはず」と話す。

 天栄村でホテルを営む草深光穂(みつほ)さん(58)は賠償請求の際、東電に申請書類の不備を指摘され、何度も返された。結局、賠償の前提となる売上高に対する粗利益の割合は実際より低い数値しか認められなかったが「いまは補償がいつまで続くのか」が心配の種という。

 賠償に関し、被災者と東電の和解を仲介する「原子力損害賠償紛争解決センター」(原発ADR)和解仲介室の野山宏室長(56)は「東電が被災者に要求する書面のうち本当に必要なものはごく一部。東電は被災者の立場に寄り添うと言うが、行動が伴っていない」と指摘する。

 原発ADRを介した賠償は約236億円と総額の1%程度にとどまるが、野山室長は「被災者の安全弁として賠償水準の底上げにつながればいい」と話した。

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