大手企業や大学などが保有する特許を中小・ベンチャー企業にライセンス契約や譲渡など有償で提供する「開放特許」をめぐる動きが活発化している。大企業が人材と資金を投入し生み出した特許は、経営資源が限られる中小企業やベンチャーにとって、時間や費用をあまりかけずに新製品という果実を得られる「カネのなる木」だ。自治体も地元企業と大企業の連携を図るプロジェクトに積極的で、埼玉県では開放特許と県内の中小・ベンチャーを結びつけるマッチング事業が始動した。
埼玉県産業技術総合センターと、さいたま市産業創造財団が10月中旬から募集を始めたのが「特許ライセンスを活用した企業支援事業inさいたま」。富士通が保有する3つの開放特許を使った新製品のアイデアをインターネットのウェブ上で一般から募った上で、県内の中小企業が連携して製品化を目指す。
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自社製品の開発力を中小企業から引き出すとともに、技術移転を後押しするのが事業の狙いだ。この「さいたまモデル」ともいえる仕組みを作った仕掛け人の一人、県産業技術総合センターの鈴木康之副センター長は
と指摘する。
富士通が提供する3つの開放特許は、光触媒チタンアパタイトの吸着・分解機能▽盗難防止コールシステム▽ゆっくり音声認識システム。商品化の決定で10万円、初年度の売上高が5000万円を超えれば50万円の報奨金が追加されることもあり、中小企業が苦手とする独自商品のアイデアが続々と集まっている。
このうちチタンアパタイトでは「入れ歯に使うと保管時の衛生に強い力を発揮する」「洋服の繊維に組み込み、太陽光を当てて汚れを落とす」といったアイデアのほか、車の内装や電車の手すり・つり革などへの活用案が寄せられているという。
さいたまモデルは、開放特許と中小企業を結びつけた後が真骨頂。県や市の支援機関は試作品開発から商品化、販売段階まで面倒をみる。さらに地元金融機関にも協力を呼びかける。
「中小企業の致命的欠陥といえる設計能力のなさを補うため、支援機関がアイデアを磨き上げたり、事業化プランの作成にも関わる。こうした『売れるものづくり』の仕組みが強み」と、市産業創造財団の青羽義行事務局長は強調する。鈴木氏も「製品を売らないと中小企業にお金が入ってこない。販路の開拓まで支援する」と言い切る。
大企業側にも開放特許の利用促進はメリットがある。富士通は出願中を含めて3月末時点で約10万件の特許をグループで持つが、未活用の特許も少なくない。商品化されれば特許使用料を得られ、特許を生んだ技術者のモチベーションも高まる。
以前には「タグ」と呼ばれるチップを使った富士通の開放特許を活用し、大学向けの「代返防止装置」が商品化された例もある。「当事者がうまく連携して機能を出し合えば開放特許を有効活用できる」と、知的財産権本部ビジネス開発部の吾妻勝浩部長は成功を疑わない。
アイデア募集は情報サイト「イノベーションズアイ」で29日まで実施。開放特許を解説した動画で「見える化」も図った。日産自動車や大学などの開放特許を基にアイデアを募る準備も進められている。関係者は、さいたまモデルの全国展開を狙っているが、そのためにも成功事例を早く誕生させることが欠かせない。(松岡健夫)