大阪を試金石に

　２月１３日夜、大阪・ミナミのアメリカ村にあるクラブ・ジュール。アルファベットの９人が定刻より少し遅れてステージに姿を現わすと、駆けつけた観客から歓声が上がった。

　白を基調に黒いラインが入った細身のシャツと黒いパンツ、黒色スニーカーで衣装をそろえ、韓国語のポップス音楽とメロディーに合わせたダンスを約１時間４０分にわたり披露。最後はアンコールで幕を閉じた。

　アルファベットの来日初ライブだ。１８歳未満は入場できないクラブでの開催となったため観客は数十人にとどまったが、最後にファンとメンバーが写真撮影するなど熱気に包まれた。

　その後、２２日まで大阪市内の４カ所でライブやサイン会・写真撮影会を開催。来場者は口コミで回を重ねるごとに増えたという。

　アルファベットは韓国出身の２０～２７歳の男性９人組アイドルグループ。２０１３年１１月にデビューした。これまでに国外ではマレーシアとフィリピン、中国に進出。現地からオファーを受けて公演してきた。

　これに対し、今回は自ら日本上陸を狙い、初来日の場所として、アジアからの観光客が多く、興行会社の協力が得られた大阪を選んだ。

　所属会社の沈載協社長は「大阪でしっかりとファン層をつかんで帰りたい。東京進出はしっかりと準備してからだ」と話した。

　初の「かわいい」男子

　初来日のポイントとなったのがイメージ戦略だ。

　アルファベットはこれまでアルバムを２枚発売。アルバムごとにコンセプトを変えている。

　１４年２月に出した１枚目の「ＡＴＴＥＮＴＩＯＮ（アテンション）」は、ジャケット（表紙）に９人がテロリストを想起させる格好をしてマシンガンなどの武器を持つ写真を使った。各曲にはヘビーメタルとヒップホップの調和にベースの重低音が加わった。

　これに対し、１４年８月に発売した２枚目「ＡＮＳＷＥＲ（アンサー）」は一転して明るくかわいらしい感じを前面に出した。ジャケットには中性的な出で立ちで色白のメークをした写真を用いている。

　２枚目のアルバムを引っさげての大阪進出。沈社長は「野性的な２ＰＭ（ツーピーエム）をはじめとして、日本にはすでに男らしい“マッチョ”なアイドルグループは来ている。かわいい系はアルファベットが初めてだ」と語る。

　韓流イベントのＭＣ（司会者）として活躍し、韓国の大衆文化に詳しい古家正亨さんは「他の男性グループと比べてそれぞれのキャラが濃く、ダンスもクオリティーが高い」と評価。「まず大阪で活動するというのは面白い動きだ」とみる。

　中高生を開拓へ

　とはいえ、Ｋ－Ｐｏｐや韓国ドラマなど韓流ブームは１１～１２年ごろをピークに右肩下がり。朝鮮日報（日本語版）によると、日本から韓国側に支払われた著作権収入は、１１年が９４億ウォン、１２年１１０億ウォンだったのに対し、１３年は６７億ウォン（現行為替レートで約７億３千万円）。１２年の６０％（ウォンベース）まで落ち込んだ。

　しかし沈社長は意に介していない。母親が韓国ドラマに熱中していた娘が、現在は中高生になっており、この年代でファンを発掘できると踏んでいるのだ。マレーシアやフィリピン、中国でも主なファン層は中高生だといい、「日本では彼女たちの母親や４０～５０代の女性も狙える」と自信を見せる。

　ただ、日韓関係は竹島（島根県隠岐の島町）や慰安婦問題で悪化し、改善の兆しは見えない。こうした日韓“冷戦”の中での日本公演に、メンバーは不安を感じていないのか。

　２７歳のリーダー、Β（ベータ）は「ニュースで（日韓関係が）悪いことは見聞きしている。でも、韓国の若い人はもっと日本のことを知りたいと思っている。大阪の人も皆親切だ」と笑顔を見せる。沈社長も「あくまで純粋にライブを提供し、文化交流を世界に発信したい。日本のファンからの反応は良かった」と強調する。

　古家さんによると、最近の男性グループは韓国で売れていないと日本でもヒットせず、逆に韓国で話題に上るためには“海外活動”という箔付けが必要というジレンマを抱えているという。

　「超新星や東方神起などの人気グループは韓国での活動時間を抑えてでも日本での活動に時間を割いている。アルファベットも、アイドル的な輝きをもったメンバーがおり、日韓での活動のバランスを取れれば成功する可能性もある」とみている。