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両親にW不倫ばれて泣き崩れる息子 「最後の砦」家族の絆いつまで続く?

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

両親にW不倫ばれて泣き崩れる息子 「最後の砦」家族の絆いつまで続く?

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 イタリア人のマリアばあさんからこんな話を聞いた。

 結婚20年を経た息子夫婦。もう大学生の子供もいる。ある日、嫁が姑のマリアに「最近、夫の様子がちょっと怪しいの…」 マリアはすぐ偵察をはじめた。疑惑の相手は息子の勤め先の女性だった。W不倫である。

 マリア夫婦は息子を呼んで話し合う。父親は事前にふたつのリストを用意していた。ひとつは「離婚のデメリット」。

 いわく、子供と会えなくなる。家は嫁のもの。息子名義の別荘はとりあげる。遺産は渡さない。お小遣いもなし。

 一方、「離婚のメリット」は?

 「新しいメス猫とやりたい放題だぞ」

 50の息子は両親の前で泣き崩れた。完敗である。愛人と別れる決意をした。しかし、息子の弱気な性格を熟知している母親は「詰め」た。二人の職場の昼時を狙い、女が出てくるのを待ち伏せし、「あなたのことは全部調べあげたわ。別れないならあなたの旦那さんや上司に言うわよ」

 女は顔を青ざめ首を垂れた。その日からまもなく、彼女は転勤願いを出して男の視界から消えた。こうして浮気事件をおこした息子と、一言もなじりもせず黙って待っていた嫁はもとの鞘に収まった。

 母親は、ぼくにこう言った。「あの泥棒猫、顔もスタイルも抜群だし、たしかにいい女だったわ。さすが、我が息子だわ。見る目がある」

 ちょっと前の話だ。イタリア中、どこにでもありそうな話だ。親は息子の翻意に努力し、かつ嫁を守ることを宣言した。「家族を守る」ことに執念を燃やす。そしてユーモアも失っていない。まるでイタリア人のメンタリティを描いた映画『ゴッドファーザー』のようだ。

 さて、このライフスタイルはいつまで続くのだろう。

 北ヨーロッパと比べ南ヨーロッパは成人した子供の親との同居率が高い。何かと親の力を頼ることも多い。「自立していない」と批判的にみることもできる。しかしながら、家族の絆の強さが、吹き荒れる経済環境から身を守る「最後の砦」になっている。

 マフィアとは悪の温床となる組織を指すだけではなく、その精神性を意味することが多い。身近にいる人間関係を優先し、またそれに頼る。起業しても一気にほかの土地に大きく打って出るより、自らの地域で堅実に地固めする。

 地縁が重んじられるから、都会の大学を出た優秀な若者も出身地に戻るのが珍しくない。「生活の質が田舎の方が高い」とUターンを賛美する。だがこの現象は、実は枠に閉じこもる性格と表裏一体なのである。

 こうして革新を生みづらい土壌を作ってきたイタリアだが、それゆえに苦境の中でもサバイバルが可能になる。

 イタリア財政危機の火が噴いてからおよそ1年が経過した。

 秋になってミラノ市内でもシャッターを下ろしたままの店舗が目立つようになった。存在感のあったカフェやインテリアショップが夏を越えられなかったようだ。

 税金の取り立てが厳しくなったため、特に正式請求書のない売買への依存度が高かった不動産分野の冷え込みは激しい。建築設計事務所はどこもリストラの真最中だ。先日出かけた建設・建築分野の展示会でも、聞こえてくるのは渋い話ばかりだ。

 が、以前とは違う光景も目にした。かつて建築は伝統的文化が尊重される保守的な世界で、二言目には「他の国で良くてもイタリアでは難しい…」というセリフが幅をきかせてきた。フランスやドイツで使われる技術も、成功例を見届けてから採用してきた。それが今や新しい工法や材料を貪欲に取り入れようとしている。目つきが違う。

 必要は発明の母と言われるが、必要が価値観、文化を変える。

 『ゴッドファーザー』には、イタリア文化が立ち向かうべき問題が提起されていたが、今、そのイタリアが変わろうとしている。「最後の砦」も変質していくのだろうか。

 ローカリゼーションマップとは? 異文化市場をモノのローカリゼーションレベルから理解するアプローチ。ビジネス企画を前進させるための異文化の分かり方だ。

 安西洋之(あんざい ひろゆき) 上智大学文学部仏文科卒業。日本の自動車メーカーに勤務後、独立。ミラノ在住。ビジネスプランナーとしてデザインから文化論まで全方位で活動。今年は素材ビジネスやローカリゼーションマップのワークショップに注力。著書に『ヨーロッパの目 日本の目 文化のリアリティを読み解く』 共著に『「マルちゃん」はなぜメキシコの国民食になったのか? 世界で売れる商品の異文化対応力』。ローカリゼーションマップのフェイスブックのページ ブログ「さまざまなデザイン」 Twitterは@anzaih

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