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ローカル線+酒蔵で地域活性化 シンポジウム、ツアー、食で魅力再発見

ニュースカテゴリ:暮らしの余暇

ローカル線+酒蔵で地域活性化 シンポジウム、ツアー、食で魅力再発見

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 ローカル線沿線で、日本酒の酒蔵を支えつつ沿線地域の活性化を図る活動が広がっている。JR御殿場線の神奈川県側の4酒蔵に着目した「足柄酒蔵の里大学」プロジェクト。沿線の異業種勉強会が立ち上げたもので、シンポジウムや酒蔵を巡るツアーを実施し、地酒と楽しめる食文化など地元の魅力の再発見に取り組んでいる。(寺田理恵)

梅干し談議

 丹沢と箱根の山々に囲まれた足柄平野(小田原市など)を走る御殿場線。沿線の「石井醸造」(大井町)は明治3年の創業。大正12年の関東大震災による焼失後に再建され、事務所部分はスカイブルーのモダンな洋風建築だ。

 梅の名産地の曽我梅林に近く、代表銘柄は古い地名の曽我村にちなんだ「曽我の誉(ほまれ)」。主力の本醸造酒は通常の工程にもち米を使う仕込みを追加した「もち4段仕込み」でコクを出す、特色ある酒造りを行っている。9月に始まった同プロジェクトの講座の一環として、酒造りの場を訪ねる回の会場となり、石井孝典専務が「建て替える余力がなくて古いままですが、天井などに蔵付き酵母がすんでいます」などと案内する。

 参加者は、地元の梅干し農家や18年前に横浜から移ってきた創作家具作家、地ビールを製造する沿線の酒販店主といった顔ぶれのほか、地域外からも。本醸造酒や売れ筋の純米酒、亡くなった前の杜氏(とうじ)が最後に仕込んだという15年物の古酒も飲み比べ、名産のかまぼこや石井醸造の酒で漬けられた大粒の梅を肴(さかな)に梅干し談議も楽しんだ。

 プロジェクトの事務局を務めるコンサルティング会社社長の中村壮一郎さんは「日本酒は食や器などにテーマを広げられる。沿線には陶芸工房、生産規模が小さくて流通に乗せにくいが良い食材もある。それを生かした飲食店が少ないのが課題。一過性の観光イベントではなく、地域の人が理解を深めることで沿線を活気づけたい」と話す。

 観光庁が推進する観光振興策「酒蔵ツーリズム」は日本酒の海外輸出や外国人観光客誘致も視野に入れるが、県商業流通課は「県内には規模の小さい酒蔵が多く、大型バスの受け入れなどが難しい」と課題を指摘。同プロジェクトも地域での消費を増やす方策を検討している。

鉄の道

 「日本再生は地方の復権から」を掲げ、酒蔵と連携したローカル鉄道沿線活性化事業を展開するのは、一般社団法人「洸楓座」(東京都千代田区)。ローカル鉄道を応援する共通銘柄「鉄の道」を開発し、「○○鉄道応援酒 鉄の道」の製造を沿線の小さな酒蔵に働き掛けている。

 地域に根ざしたローカル鉄道と発酵文化を象徴する日本酒を守るのが目的で、主宰する佐藤建吉・千葉大大学院准教授は「廃線の危機にさらされている鉄道と、日本酒離れで衰退している酒蔵を一緒にして分かりやすくしたのが『鉄の道』。酒蔵はそれぞれ独自性を出しているが、数が多くて覚えきれない」と説明する。

 「いすみ鉄道」(千葉県大多喜町)沿線で平成21年に第1号が誕生。「水間鉄道」(大阪府貝塚市)や「三陸鉄道」(岩手県宮古市)などに広がった。佐藤さんは「飲めば運転ができないから鉄道に乗り、飲食や宿泊でお金が落ちる。ローカル線と酒蔵が助け合うことで鉄道ファンも日本酒ファンも応援にかかわり、さらに広がる可能性もある」と期待している。

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