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グルメ杵屋の“太っ腹”戦略 若者の情熱を引き出す人事制度とは
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疑似店舗で手打ちうどんに挑戦する新入社員(グルメ杵屋提供) 外食チェーンの人材育成は、調理や接客など店舗での具体的な仕事を通じて進められがちだ。ところが、うどん店チェーンを全国展開するグルメ杵屋は、新入社員に対し、一般企業でも珍しい1年という長期の研修を課す一方、優秀者は2年目にして店長に抜擢(ばってき)される。もちろん給与も店長待遇という“太っ腹”な人事制度を貫いている。
「経験不足を情熱が超えることもあるんじゃないか。そう思ったのが、この制度を始めたきっかけです」
グルメ杵屋の椋本充士社長が現職に就いた平成22年、多くの経営課題のひとつとして着手したのが人材採用とその育成だ。
幹部候補生として育成するため、新入社員の採用条件をすべて大卒に切り替えた。実務を通じたOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)中心の研修もがらりと変えた。
現在、同社の新入社員研修は座学に加え、本社に併設した疑似店舗での実習を中心に進めている。そこで学んだことは現場でも検証。そうすることで「練習通りにはいかないことを体感できる」と、椋本社長は話す。実店舗での反省点は持ち帰り、技術や手順を磨いていく。1年間はこれを繰り返す。
その座学は企業理念に加え、会計や英会話、リーダーシップなどまでたたき込む、まさに幹部教育。入社1年後の就任を目指す店長としてはもちろん、将来、本社の部門長や役員としてのマネジメント力を身につけるためだ。
一方、疑似店舗では割烹(かっぽう)などで経験を積んだプロの板前が講師を務め、「料理のいろは」を教える。食器の洗い方やネギの切り方、うどんの手打ちなどを伝授。グループが展開する韓国料理店や洋食店での調理も、それぞれの講師が指導する。メニューとして扱っていない魚の三枚おろしなども学ぶ。
「現場で専門的な調理技術を求められることはありませんが、厨房(ちゅうぼう)に立つこともある以上、基本は知っておくべきです」。調理全般を学ばせる意義について、椋本社長はこう説明する。基本を知れば、ネギの切り方ひとつで、なぜおいしくなるのかが分かる。それは物事の良しあしには必ず理由があるという理解や、誰かに教える際の基準にもなると、椋本社長は考えている。
1年の研修を終え、筆記、技術、面接でテストし、バランス良く全項目をクリアした合格者だけが晴れて店長になれる。初年度の合格者は研修受講者26人中4人と2割に満たなかったが、その後は18人中9人、16人中8人と半数に達している。「店長手当て」も他の店長と同様に支給。利益を生まない研修中の1年を考えても、新入社員に対する投資意欲の大きさが分かる。
制度を刷新して4年目となると、効果も出始めた。社の方針である「お客さま第一主義」と、若者ならではの情熱や理想が、良い相乗効果を生んでいる。
ある店では、地域の子供らから募った両親の似顔絵を展示。別の店では絵本を置き、家族連れに待ち時間を楽しく過ごせる工夫を始めた。他にもトランペットの得意な社員が空いている時間帯を利用して店内で演奏会を開いたりと、“新人店長”が考える客との接点づくりが、さまざまな形で現れているという。
「トップはピラミッドの頂点でなく、円や球体の中心にいる起爆剤のような存在であるべき。だから店長になった社員には万一、自分がいなくても店が回っていくような組織を目指してほしい」と、椋本社長は話している。(田村慶子)
本 社:大阪市住之江区北加賀屋3-4-7
設 立:昭和42年3月
資本金 :58億3823万円
事業内容:うどん「杵屋」、そば「そじ坊」、洋食店などの経営
売上高 :359億円(平成25年3月期連結)
従業員 :4106人(平成25年3月31日現在、パートタイマー含む)