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鎌倉シャツ「満足を提供する」 信念ぶれない創業者に学ぶ日々
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「鎌倉シャツを世界中に届けたい」と話す、メーカーズシャツ鎌倉常務の貞末奈名子さん 「鎌倉シャツ」の名で知られるアパレル会社「メーカーズシャツ鎌倉」常務の貞末奈名子さん(41)の父、良雄さん(73)は同社の創業者。
アイビーで一世を風靡(ふうび)した「ヴァンヂャケット」で服飾を学び、創業20年で“メンズの聖地”米ニューヨークはマディソン街に出店を果たした。奈名子さんは「人生、巻き込まれました」と言いつつ、経理や業務システムの構築などで支えてきた。
「上質なシャツを低価格で販売する」という理念の下、鎌倉シャツは平成5年、神奈川県鎌倉市のコンビニエンスストアの上階で最初の店をオープン。国内での縫製にこだわりながらも、ほとんどを税別4900円で販売している。百貨店など大規模小売店からの返品を見越した価格設定をせず、「自分で作って自分で売る」という発想で中間コスト削減に取り組んだ。
今でこそ全国25店舗に拡大したが、創業当時はバブル経済が崩壊し、人々が自信や活気を失っていた時代。20歳の奈名子さんは大学在学中だった。
「(アパレル会社からの)父の退職金が全部シャツになったみたいで、うちはシャツに埋もれてしまうのかと思いました。工場にシャツを作ってほしいとお願いすると、やめなさいと親切心から言われたそうです」と振り返る。
周囲の反対をものともせず、信念に従って突き進む良雄さんはオピニオンリーダー。奈名子さんは10年、両親が経営する同社に請われて入社し、父の号令一下、「えー、と言いながら従っていく」。その一例が24年10月のマディソン街出店だ。
「わがままな父が『ニューヨークがいいんだ』と。もう家族会議が紛糾したような感じでした。リーマン・ショック(2008年)でアメリカが沈んでいて、トレンドは中国や東南アジア出店なのに完全な逆張り」
出店準備に追われた奈名子さんは、日米の会計システムの違いから何度も日本と米国を行き来する毎日が続いたが、「父は横で爪を切っている」。
しかし、結果的には1ドル=80円程度の円高のときに資本金を送ることができた。メンズショップが集まるマディソン街は特別な場所。そこに店がある、ということで今後、中国などへも出店しやすくなる可能性もある。
日本人の繊細な気遣いと手先の器用さが発揮された縫製が、鎌倉シャツのこだわり。それをマディソン街の客は説明しなくても理解してくれる。「ごめんなさい、お父さん。あなたが正しかった。巻き込まれたけど、新しい世界を見せてくれた」と感謝する。
昨年4月には「父の大号令」で、マディソン街の店と同じ価格で世界に販売するサイトを立ち上げた。国内向けサイトは年間約7億円の売り上げがあり、同レベルに育てて鎌倉シャツを世界中に届けるのが次の目標となった。
「何をしてもぶれないのは見ていて感じます。満足を提供したいという思いが根っこにある。迷ったとき、どちらがお客さまや取引先に喜ばれるかを私たちは指標としています」。経営理念を間近で学ぶ日々が貴重な体験となっている。(寺田理恵)
これからも長く、元気に人生を楽しんでください。元気でいてくれることが私たちにはうれしいので、全力疾走でお願いします。
さだすえ・よしお 昭和15年、山口県生まれ。41年、「VAN」ブランドで30~40年代にかけて若者に支持されたヴァンヂャケット入社。統括部長として営業や販売促進などを担当するが、53年、倒産により退社。アパレル数社を経て平成5年、メーカーズシャツ鎌倉を創業。現在は会長。
さだすえ・ななこ 昭和47年、神奈川県生まれ。平成7年、湘南信用金庫入社。10年、両親が経営するメーカーズシャツ鎌倉に入社。主にウェブビジネスの立ち上げや店舗の物件交渉、業務システム構築に携わっている。