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“最悪シナリオ”でも甘い 南海トラフ地震の被害想定、研究者ら疑問と不満
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「国よりも地域性を反映した」(河田恵昭・関西大教授)大阪府の想定だが、河田教授をはじめ、研究者らからは疑問の声もあがる 南海トラフ巨大地震の被害想定について、大阪府は1月末、ライフラインなど経済被害を約28兆円と公表、ライフラインは被災後1カ月でほぼ復旧するとした見通しを示した。しかし、防災研究者らは「人口が多く、インフラが複雑多岐にわたる大都市での大災害は必ず想定外の被害が発生する」と指摘。柔軟で多様な被害のシナリオを示すことを求めている。(編集委員 北村理)
府は、津波が淀川を遡上(そじょう)することで川沿いの上水道取水口が被害を受けるとした独自想定を示し、断水率が人口の約9割、国想定の約2倍にのぼるとした。
下水道については「施設の停電の影響が小さい」などとして、国想定の約20分の1に抑えた。
これら府の想定を審議した、南海トラフ巨大地震災害対策等検討部会の部会長、河田恵昭・関西大教授は「国の想定より地域性を反映している」と評価しながらも、「府民にとって何が起きたら本当に困るのか」といった“最悪のシナリオ”が示されているとは言い難い-と指摘した。
そのうえで、「想定のスケールを今回の2倍以上に広げる余裕をもって、さらに検討を重ねてほしい」と注文をつけた。
検討部会では、河田部会長ほか、複数の委員からも同様の意見が出された。今回の府の想定は何が足りないように防災研究者の目に映るのか。
ライフライン被害を研究している岐阜大の能島(のじま)暢呂(のぶおと)教授(地震工学)は、停電率の低さを挙げる。
府の想定では、停電率は府内の電力供給軒数のうち55%が停電するとした。
しかし、能島教授は「阪神・淡路大震災、東日本大震災では、電気、ガス、水道の中で停電が最も広域に及び、停電の影響を受けた人口も最大だった。この事実を府はどう見ているのか」と疑問を呈する。
今回示された想定では、上水道の断水人口が94%だったのに停電率はこれを大きく下回っている。
能島教授がこれまで研究してきた予測モデルからみても、府下の多くの地域で想定されている震度6弱の場合、「停電率は70~95%。被災地のほぼ全域に及ぶ。このことを念頭に対策を考えるべきだろう」。
こうしたちぐはぐさは、例えば電力は上下水道と異なり、府が算出せず、関西電力からのデータ提供を受けたため生じる。ガスの被害想定も大阪ガスの協力を得ており、「府や民間会社だけでなく、ライフライン被害の研究者の視点も必要だ」(河田教授)。
被害想定の数値公表の難しさは、このことひとつとってみても分かる。
また、能島教授は「現時点で可能な対策を積み上げるだけでも、被害想定の数字は変わる」という。
検討部会の審議でも、避難者数191万人について、「時間とともに避難者の健康が悪化することは過去の事例から明らか。災害発生後の応急対応には限界がある。被害を軽減するために事前に対策を考えておくべきだ」とした意見が出された。
事例として、米国のハリケーン対策があげられ、公的支援による自宅修復プログラムが紹介された。
このほか、146万人の帰宅困難者については、災害直後の無秩序な避難者の移動を抑制することが救援活動を妨げず、二次被害の拡大を防ぐ可能性があるとの意見が出された。
能島教授は「想定と実際の被害は差が生じるもの。想定は大きめに見積もり、被害が想定を大幅に下回るように対策を検討、推進してほしい」としている。
近年、国や自治体の防災計画が発表されると、必ずと言っていいほど「共助」(共に助けあうこと)を重視する方針が打ち出される。大いに結構だが、「自主防災組織の活性化」、「近隣での助け合いの重要性」といった文言を見るたびに、もうひと工夫必要ではないかと感じる。
助けあう行為の主体が何なのか、今一度考えてみる必要がある。地縁的なものだけが重視されていないだろうか。もちろん、隣近所での助け合いも大切だ。しかしそれだけではない。
例えば、大都市の繁華街を大地震が襲ったとする。居合わせた多くの人たちが「烏合(うごう)の衆」となるのか、昨年話題となったDJポリス(巧みな話術で群衆に呼び掛け安全に誘導した警官)的なリーダーが現れ、「みんなで危機を乗り切ろう」という空気が醸成されるかどうかで、その後の被害の様相が大きく変わる。
このような事例は、実際に多く見られる。平成22年の年末から翌年の年始にかけて、鳥取県を中心に豪雪が襲った。この時、立ち往生した車に閉じ込められた人たち、周辺の商店主、さらにはツイッター等で外部から支援する人たちがいた。これも共助だ。
また、百貨店等での避難訓練で、たとえば高齢者の避難の手助けをその場に居合わせた他の買い物客にも依頼しようとする事例もある。あなたが無事なら「共に」の担い手になってください、というわけだ。
南海トラフ巨大地震・津波は、不特定多数の人が行き交う都市部にも被害をもたらすと想定されている。だから、こうした新しい共助も必要だ。実際、若い世代を中心に、地域の防災組織には後ろ向きな人も、こうしたタイプの共助なら「がんばります」と言ってくれる人は、案外たくさんいるはずだ。