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書評
【書評】『片山正通教授の「好きなこと」を「仕事」にしよう』片山正通著
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『「好きなこと」を「仕事」にしよう』
学生はもちろん、社会人にもお薦めしたい本がある。とある授業をまとめた一冊なのだが、僕がいま学生だったら、他大学だったとしても、なんとか潜り込んでその授業を受けたと思う。
授業の名は「インスティゲーター(扇動者の意)」。大学の授業とは思えない、何かのイベントのような名前だ。実際、開始前にはライブ会場さながらの長蛇の列ができ、整理券が配られるらしい。そして教室に入れば、薄暗い空間に学生たちの熱気が溢(あふ)れ、音楽家・大沢伸一氏のセレクトしたクールな曲が流れる。
ゲストの顔ぶれも豪華だ。アートディレクターの佐藤可士和氏にスポーツ界のスター、中田英寿氏。ファッション界からはNIGO氏、映画監督の本広克行氏、そして気鋭の美術家、名和晃平氏。学生たちが夢中になるのも頷(うなず)ける。そして授業の仕掛け人は、インテリアデザイン界のフロントランナーとして世界的に活躍する片山正通氏。武蔵野美術大学の空間演出デザイン学科の教授に就任後、「自分が学生だったとしたらこんな授業を受けてみたい」という願望をそのまま形にし、現在も継続中だ。
この本は、授業に登壇したゲストによって語られた、子供の頃から現在に至るまでの足跡と10年先の展望を、その熱気のまま閉じ込めていて、まさに人生の教科書のよう。ゲストたちから発せられるメッセージがとてもポジティブで、読んでいて勇気をもらえる。「好きこそものの上手なれ」じゃないけど、やっぱり活躍している人は「好きなこと」を突き詰めて磨いてきた人たちばかりだった。
僕自身、4月から多摩美術大学の教授として教える立場になるのだけれど、ぜひこんな授業にしてみたい。米ハーバードやスタンフォードの授業など、海外の大学教育に注目が集まっているけれど、こちらも負けていられない。
「日本の大学も面白いぞ!」と証明してくれたパイオニア的授業を、本書を通じて追体験してはどうだろう。自分が本当にやりたかったことは何だったか、原点に立ち返れるに違いない。(マガジンハウス・1470円)
評・佐野研二郎(アートディレクター)