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「地域の力」に注目 制度改革の先駆事例、介護予防に「集いの場」

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

「地域の力」に注目 制度改革の先駆事例、介護予防に「集いの場」

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昼の食事が済んで、思い思いに過ごす。奥では、99歳を最高齢に雀卓を囲む。男性参加者が多いことも特徴=栃木県那須塩原市のなじみ庵  ■高齢者の能力生かし「用事がある」で元気に

 「地域の力」が注目されている。高齢者が能力を生かし、支え手になることで、お仕着せでないサービスが広がる。介護保険の予防事業では来年度以降、ボランティアが主導する「集いの場」を作ることが市町村に求められている。早くから、住民力を引き出してきたNPO法人の取り組みをリポートする。(佐藤好美)

 栃木県那須塩原市の集合住宅に、「街中サロンなじみ庵」がある。朝9時には、高齢者がシルバーカーを押したり、家族に送ってもらったりで三々五々集まってくる。誰でも利用できるが、自力で来られない要介護や要支援の人には無料送迎もある。

 運転するのはボランティアの伊集院久志さん(73)。この日は午前8時半からなじみ庵と利用者宅を4往復し、2時間の間に分刻みで8人を送迎した。退職して1人暮らしの伊集院さんは「年も年だし、人を乗せるのは気も遣う。毎日だからスケジュールは窮屈だけど、それをこなす心地よさもある。仕事をするのと同じかな。体が弱くなったら無理だけど、参加することで人の役に立ち、喜んでもらえるのがいい」と言う。

 車とガソリン代はなじみ庵が持つが、運転は無償。午後の送りを担当する古賀利邦さん(72)と2人で、「でも、ランチがタダだよ」と楽しげだ。

 利用者のお目当てが、なじみ庵のランチ。この日の献立は魚のフライ・トマト添え、豚肉とピーマンとタケノコのカレー炒め、焼きみそ味モロヘイヤなど。小皿の多い家庭の味が、単身の高齢者を引き寄せる。コーヒー付きで会員は300円。ランチに通っていてボランティアに「スカウト」される人が多い。

 調理を担うのもボランティア。保健所には食堂として届け出ているから、調理に入る20人は全員が検便検査済み。この日は72歳を最高齢に、4人が厨房(ちゅうぼう)に立った。家で取れたモロヘイヤを刻む男性の傍らで、女性(70)が持ちこまれたトマトを切る。女性は夫を亡くして引きこもり、要支援と認定された。通い始めて、話して、泣いて、食べられるようになった。今はマージャンと調理に来る。「ここは、本当にいいのよ。日頃、世話になっている分、手も出さないとね」

 隣のフロアで米寿の看護師、増渕光子(てるこ)さんが認知症予防の体操指導を始めた。できない人が続出する。

 「これだけのことが、なかなか覚えられないのよ」

 「もう90なんだから、仕方ないのよ」

 「いいのよ、いいのよ。忘れないと覚えられないんだから」

 できない人の指に、隣の人が手を添える。運営するNPO法人「ゆいの里」代表の飯島恵子さんは「地元で自分らしく暮らし続けていくために、老いも若きもお互いさまでゆるやかに支え合っていきたい」と言う。

 なじみ庵のスタッフは、介護福祉士が1人。あとは利用者が、できることを見つけて「仕事」にあたる。食事の喧噪(けんそう)が去ると、元和菓子職人の男性(87)が翌日使う割りばしをはし袋に詰め始めた。

 飯島さんは「地域にはプロがたくさんいて、認められていない『もったいない力』がまだまだある。なじみ庵に来て話をするうちに、得意なこと、したいことが見えてくるし、本人もやりたい気持ちになる。『ありがとう』とか『おいしかったよ』とか言われると、役に立った実感もわく。受け身にならないから元気でいられる」と、いい循環を説明する。

 会員の名言がある。「年寄りはね、『キョウイク』と『キョウヨウ』が必要なの」。教育と教養ではなく、「今日行くところ」と「今日用事がある」こと。なじみ庵が、その舞台になっている。

 ■要支援給付、29年度までに地域事業に

 ■ボランティアの力、どう引き出すか

 なじみ庵の会員は125人で平均年齢は78.8歳。介護保険で要介護・要支援の認定を受けている人は15%だが、「申請していない人も含めると、要介護か要支援くらいの人が3割弱」(飯島さん)という。介護保険の事業所ではなく、那須塩原市の補助金で運営されている。

 だが、市町村にとっては来年度以降、介護保険でこうした住民主体の「予防の場」を作ることが課題だ。制度改正で、要支援の人を対象にした通所介護(デイサービス)給付が平成29年度までに地域事業に移る。厚労省は事業の多様化を求めており、ガイドライン案では(1)事業所などが緩和基準で行うサービス(2)NPO法人などがボランティアらと作る集いの場(3)看護やリハビリなどの専門職が3~6カ月で行う機能改善や栄養改善-を示している。

 市町村の差し迫った課題は、現行サービスの利用者になるべく影響を及ぼさずに、どう移行するか。次の課題が、住民も支え手となる集いの場をどう作るか、だ。

 どの市町村も地域事業の具体化に頭を悩ませるが、こうした事業は、市町村の意向だけでできるわけではない。

 飯島さんは「地域格差は、暮らしている市民が作る面もある。上から『ボランティアをやれ』と言われると、うんざりするけれど、わが町をこうしたいと思い、市民が関与することで町は変わっていく。この町が好きか、生きて死んでいくこの町をどうするかだと思う」と話している。

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