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介護保険、サービス併用阻む「支給限度額」 認知症、独居で超過も…

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

介護保険、サービス併用阻む「支給限度額」 認知症、独居で超過も…

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室内では車いすだが、洗濯も自分でするという山本さん=横浜市  ■「用具多い」「認知症」「独居」で超過も

 なるべく家で暮らしたいと思っても、要介護度が重くなるにつれて難しくなる。看護師やヘルパーが夜間の緊急コールに応えるサービスも介護保険にはあるが、他のサービスと併用しにくく、普及が進まない。併用を阻む背景には、要介護度に応じてサービス量を定めた「支給限度額」の問題がある。来年度の報酬改定に向けて、見直しが検討されている。(佐藤好美)

 横浜市に住む山本葉子さん(72)=仮名=は脳出血を患って以来、右半身まひがあり、車いすで暮らす。食事はできあいのもので済ませるが、1人暮らしだから自分で洗濯もすれば、片手で洗濯物も干す。

 「家にいた方が気楽でいいわよ。施設の人から『今なら入所できますよ』って言われたこともあるけど、『いいです』って言ったのよ」

 入所する代わりに、車いすを動かしやすいよう、床をフローリングに替えた。介護保険では電動と手動の計2台の車いすを借り、テラスに乗降リフトをつけている。玄関にスロープをつけるスペースがなかったからだ。

 他に利用するのは、週2回の通所介護と週1回の訪問介護。月3回程度の通院時のタクシー乗降介助。ベッドから転落して戻れなかったことがあるので、万一に備えて夜間コールに応じてくれる「夜間対応型訪問介護」を契約している。呼べば費用がかさむから、気軽に呼ばないように気をつけている。

 介護保険では、要介護度によって利用できるサービス量が異なる。山本さんは要介護3で限度額は約27万円。この額までは1割負担だが、それを超えると10割負担だから、限度額に収めるのは死活問題。今はまだ、だいぶ余裕があるが、訪問リハビリを利用していたときはギリギリで、夜間にコールしたら超えてしまったこともある。

 ケアマネジャーで、コープケアサポートセンター港南の安田好子さんは「山本さんの場合、車いすが2台とリフトもあり、福祉用具の額が大きい。でも、本人が外出を楽しみにしているので、そこは大切にしたい。訪問リハビリを再開したいと思って探しているが、リハを入れれば限度額は苦しくなる」と頭を悩ませる。

 介護保険では平成24年度に、看護師やヘルパーが利用者のSOSに24時間態勢で応える「定期巡回・随時対応サービス」が新設された。コールの回数にかかわらず定額のサービスだが、山本さんの場合、通所介護や福祉用具と併用すると限度額を超す。1人でトイレに行けなくなったら選択肢の一つだが、要介護度が上がった時点で限度額に収まるかどうか微妙なところだ。

 安田さんの事業所ではこの春、限度額の9割を超えてサービスを利用する人が22人いた。全体の15%。いわば限度額を気にしながらサービスを使う人だ。16人が認知症。12人が独居か、昼間は1人の「日中独居」。両方の要素がある人は9人だった。安田さんは「実際には、限度額を超える人には裕福な人が多いが、限度額を超えそうになる人には認知症や独居、日中独居が目立つ。今の介護保険は、こうした人を支えられていない。単身や認知症の人だけでも限度額の上乗せがあるといい」と話している。

 ■区分支給限度額

 要支援1  5万0030円

 要支援2 10万4730円

 要介護1 16万6920円

 要介護2 19万6160円

 要介護3 26万9310円

 要介護4 30万8060円

 要介護5 36万0650円

 (平成26年4月以降。1単位10円で計算)

 ■14年前の“仕様”現状サービスに合わず

 支給限度額の引き上げは、介護報酬改定のたびに浮上しては消える課題だ。厚生労働省は一貫して見直しに消極的。見直しは介護保険財政への影響が小さくないからだ。限度額を超えて利用する人は要介護5でも6%にとどまる。

 この問題が冷静に議論されないのは、個々の介護メニューである「ケアプラン」への不信があるからだ。前回報酬改定に際し、厚労省が限度額を超えたケアプランを調べたところ、ヘルパー利用に偏った単調なプランが多く、中でも家事援助の利用が多かった。「ヘルパーを家政婦代わりに使っているのではないか」との批判は根強い。一方で、認知症の日中独居の人が「家事援助」の名目で見守りを利用している可能性も否定できない。

 来年度の報酬改定に向けて、やや事情が違うのは、厚労省が在宅看取(みと)りの切り札として導入した「定期巡回・随時対応サービス」が広がらないことがある。コールの回数によらず定額報酬だが、支給限度額すれすれに収めたため、利用者は他のサービスと併用しにくい。かといって、報酬を下げれば、事業所の参入が見込めない。

 認知症の人の家での暮らしを支えるために新設された「複合型サービス」「小規模多機能型居宅介護」でも同じ問題がある。いずれも看取りまで対応する手厚いサービスだが、高い報酬をつけるには支給限度額が壁になる。厚労省は来年度の報酬改定に向けて、(1)これらのサービスで独自の限度額を設定する(2)いくつかの加算を限度額の対象から外す-などを検討課題として挙げた。

 支給限度額は介護保険が発足した14年前から、大きな変更がない。今回、見直しを迫られる背景には、当初の介護保険が想定していなかった在宅看取りや、認知症の人や単身者の増加がある。ケアマネジメントの向上は必須の課題だが、在宅の旗を振るなら見合うサービスが必要になる。

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